甘き香り、陽炎に似て

□空とフェンスと、君の手と
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トイレにある鏡の前、といえば恋バナの定番スポット。
当人達が本当にそう思っているかどうかは知らないが、とにかくココ、月臣学園高等部でもそれらしい会話が拾えるらしい。

例えば、ほら、2年の女子トイレで水音と共に叫んでいる女子生徒が1人。

「だーもうっ!アイツはいつもいつもっ」
「亮子ってば、何怒ってんのさ」

「か、カノン!?」

ざばざばと手を洗っていた亮子が振り返ると、オレンジがかった茶髪の少年が、入り口の柱に背を預けて立っていた。

「ちょ、ここ、女子トイレッ!」
「やだなぁ、細かいコトは気にしないで」
「細かくないだろっ!」

ひらひらと手を振るカノンに顔をしかめながら、蛇口の水を止める。
その横顔をじっと見つめて、カノンもまた眉をひそめた。

「何?怒ってたんじゃなくて、泣いてたの?」
「はぁ?そんな訳」
「まーた、浅月なんでしょう」
「な、べ、別に香介は関係な…ッ」

幼馴染みの名前に、ぱっと顔色を変えた少女を見て、はぁ、と大きく息をつく。

「全く、バカなんだから」
「!?」
「ふふ、亮子じゃなくて浅月がね。アイツはバカでニブいから、亮子が可愛いってコト、ちゃんと分かってないんだよ」
「な、何言ってんだいっ」
「いっそのこと、見せ付けてやるってのはどう?」

顔を真っ赤にして狼狽する亮子を見て、再び出かかった溜め息を無理矢理飲み込む。
代わりに、にっこりと笑うと、何故か彼女がじわり、と後ずさった。
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