甘き香り、陽炎に似て

□Shooting STAR
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「その程度で見逃すようじゃ、縁がなかったんだろ」

主語がわからないまま、適当な事を言ってみる。
だが意外にも、的を得た言葉だったようで、ひよのは頬を膨らませた。

「むぅ…わかってますよ。見えるときっていうのは、たまたま見上げた空でも、流れちゃうものなんです」


…夜空を流れるもの。


少女の台詞に歩は、あぁ、と納得した。

「流れ星、か」
「…やっぱり、わかってなかったんですね」

宣言通り、グーのパンチが飛んできたが、歩はひょいひょい、と軽く避ける。
ひよのが勝手に教えたのだから、甘んじて受ける筋合いはなかった。

「もう!避けないで下さいよ!!」
「ふざけるな。俺は“何が”とは聞いてないぞ」
「む〜、そんなの正々堂々じゃありません!」
「卑怯者で結構だ」

正直者が馬鹿を見るような世の中は、嫌だけれど。


そこまで言って、ふと会話が成り立っている事に気付き、歩は最初に言おうとしていた事を思い出した。

「て事は、あんた。流れ星なんて、見れる確率の低いもの捜す為に、俺をこんな夜中に呼び出したのか」

トゲを強調しながら、ちくちくと言ってみたが、ひよのに動じた様子は全くない。

「何言ってんですか。今夜はその確率が、すごーく高いんですよ!」
「…へぇ」

それは知らなかった。流星群でも来るんだったか。

「大体、鳴海さん。こんな遅くに、女の子の1人歩きは危険でしょう?」
「あんたなら大丈夫だろ」

例え襲われても、返り討ちにくらい出来そうだ。
そもそも、鳴海家に迎えに来たのだから、そこまでの道のりは1人歩きだったろうに。



夜道に、背中を力いっぱい叩く、高い音が響いた。
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