甘き香り、陽炎に似て

□trick and treat
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「ただいまー」

どさ、と派手な音を立てて、亮子が帰宅した。
相変わらず、毎日練習で帰りが遅い。
その割に、けろっとした顔で帰ってくるのだから、彼女の体力は信じられないものがある。

「trick or treat?」
「…は?」

おかえりの代わりに、今日だけの特別な挨拶で迎えた香介を見て、亮子は眉をひそめた。

「香介…何だい、その頭」
「理緒の置き土産。忘れたのか?」
「いや、覚えてるけど。そうじゃなくて」

何のつもりだい、と睨みつける先には、噂のネコ耳ヘアバンド。
この家にある仮装グッズなんて、コレくらいしかなかったのである。

「確か、にくきゅう手袋もあったハズだよなぁ。一緒に置いてなかったぞ、アイツ」
「そういう問題じゃないだろ」

心なしか、疲れの増したような顔をしつつ、ツッコんでくる。
香介だって、相当恥ずかしいのだが。


「で、どっちだよ」
「何が?」
「だーかーらぁ。とりっく、おあ、とりーと?」

わざとらしく、はっきりと日本語で発音してやる。
それでも、きょとん、としている亮子に、日本語訳を付け加えてみる。

「お菓子くれなきゃ、悪戯するぞ?ってな」
「…は?」

最初に英語で言ったときと、全く同じ反応が返ってきた。
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