セピア色に滲む光に

□この花を、君に
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「ほらよ、秋」

無造作に手渡された、にしては随分と大きな鉢植えだった。

「何?ゼロイチからのプレゼント?」
「カイんトコから」
「そりゃそうでしょ」
「本来は、夏に咲くもんだそうだ」
「知ってる。だから花花だろうな、って思った」
「そうか」
「うん」

「…で、ゼロイチからのプレゼント?」

話が振り出しに戻った。
はぐらかしきれなかったことに、零一が小さく舌打ちする。
ちら、と目をやると、期待をたっぷりと込めた熱い視線を返された。

「バイトの給料から差っ引き」
「やっぱり〜」

くすくすと可笑しそうに、秋が肩を揺らす。
不機嫌丸出しで、眉間に皺を寄せていた零一が、ふと思い出したように顔を上げた。

「お前、その花の名前、知ってるのか?」
「…え?うん、大きな蜘蛛の花でしょ。酔蝶花。日本名は、えーっと」
「西洋風蝶草。クレオメだ」
「何か、ゼロイチから花の名前が出てくると気味悪いね」
「うるせぇ、ゼロイチって言うな」

お決まりの台詞を返すと、秋がくすぐったそうに首をすくめた。
何だか知らないが、機嫌が良いのは喜ばしい。

「それで、季節外れなクレオメを僕にくれた心は?」

もっともな質問だったが、零一はそこで、ぐっと言葉に詰まった。

「…〜〜ろが」
「え、何?」

「〜ッ、お前が欲しいっつったんだろが!」

頬が紅潮している。
思わず笑い出したくなった秋だったが、クレオメを所望した覚えはなかったので、ぎりぎりで堪えた。

「ぼ、僕、クレオメが欲しいなんて、言ったことあったっけ?」
「クレオメじゃねぇ、誕生日に花が欲しいっつったんだよ」

忘れんな、と吐き捨てられて、あぁ、と思い出す。
確かにそんな事を言ったこともあったが、まさか本気にされていたとは。

「ふ、くくっ…で、でも何でクレオメなのさ…」
「笑いながら聞くな」
「ふふ…む、無理だろ…く、はははっ」

鉢を抱えたまま、身体を折ろうとするので、クレオメの鉢を秋の手から取り上げる。
素直に鉢を零一に委ねた秋は、笑いながらしゃがみ込んでしまった。
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