セピア色に滲む光に
□all for ME
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窓からの明るい陽射しが、時刻は未だ昼間だと伝えている。
もぞり、と手足を縮めると、いつの間にか自分のタオルケットが掛けられていたことに気付いた。
かちゃかちゃと音がするのは、キッチンで座木が何かしているからだろうか。
そう考えて、ふと自分がソファを占領していることに思い至り、寝起きで未だ重い頭を、気合いで持ち上げた。
「あ、リベザル起きたの?」
「おはようございます、兄貴」
「おはよう。よく寝ていたね」
にこり、と穏やかな笑顔と共に、挨拶が返ってくる。
彼は予想通り、キッチンで皿を片付けていたようだった。
「ほら」
「わ、何?」
背後から唐突に、ぬっと出された細い腕の先では、黒い獣が丸くなっている。
「柚之助!あれ、どうして師匠が?」
首を逸らして見上げた先には、色素の薄い猫っ毛が揺れていた。
じと、と半眼で見下ろされて、リベザルはソファからずり落ちそうになる。
「え、えと…俺、何かしましたっけ?」
「自覚がないのは、タチが悪いな」
柚之助が手足を動かすと同時に、秋の手が離された。
リベザルの膝に柔らかく着地した黒い野弧が、顔を寄せるように頭を持ち上げる。
慌ててリベザルも顔を寄せた。
「リベザル、ボクのこと抱き締めて寝ちゃったんだよ。最初は平気だったんだけど、抜け出そうとしてもがいたら、逆に出られなくなっちゃって」
「え、わ、ごめん柚之助!」
「うぅん、平気。そこを秋さんが助けてくれたんだ」
すまなそうな柚之助の声に、胸が苦しくなる。
「師匠も、ごめんなさい」
「何故、謝る?」
「だって俺、柚之助にも師匠にも迷惑掛けちゃって」
「別にボク、迷惑なんかじゃないよ」
慌てた様子でフォローする柚之助の頭を軽く撫でて、秋が香り煙草をくわえた。
「まぁユノに謝るのは当然だけど。僕は別に、謝られるほどの迷惑はこうむってない」
秋の口元で、未だ火の着いていない煙草が上下に揺れる。
その動きを目で追いながら、リベザルは寝癖の残る頭をフル回転させた。
「リベザル、秋は謝って欲しいわけじゃないんだよ」
「ザギは黙る」
「はい」
座木の助け舟は、秋の一言によって、あっさり苦笑に変わる。
「あの、俺」
「ん?」
面倒臭そうに煙草に火をつけながら、秋が目だけで返事をする。
「ありがとうございました、師匠」
「どーいたしまして」
ふぅ、と吐き出された煙は、いつものハーブの香り。
リベザルが安心したように一息ついて、くしゃりと笑った。
別に、お礼を言われるコトでもないんだけどな。
お前の為じゃなくて、僕がやりたいから、そうしただけだから。
想いは口を付く前に、紫煙と共に昇華させる。
―――いわゆる、ヤキモチ行動
≪Fin.≫