セピア色に滲む光に

□my name…
6ページ/7ページ

【ぎ】


「義理だからね!」

何だか物凄い勢いで、念を押された。

「分かってるってば。誤解されたくない相手にでも、覗かれてる訳?」
「そんなコトないけどっ!とにかく、義理だから!!」

叫びすぎて、頬が紅潮している。
そこまで大騒ぎしなくても良いだろうに。

「…って叫んだ挙句、走って逃げてったんだよねぇ」
「で、秋は何でココにいるんだ」
「だってバレンタインだよ?ゼロイチがチョコレート貰えたかどうか、気になって確かめに来たに決まってるじゃないか」
「…ヒマだな、お前」
「で?ゼロイチはチョコ、貰えたワケ?」
「大きなお世話だ」

ふい、と視線を逸らすゼロイチを見て、自然と笑みが零れる。

「ね、せっかく貰って来たんだし、ゼロイチも一緒に食べない?」
「…いや、それは秋が1人で食うもんだろ」
「?別にいいでしょ。義理だって言ってたし」
「あのなぁ…」

何かを言おうとして、もごもごした挙句、結局彼は黙ってしまった。
何だかよく分からないまま、1度もチョコに手をつけなかったゼロイチは、本当に律儀。
…別に、気にする程のことでもないと思うんだけどな。

それは、お祭り仕様の小さなミルクチョコレート。



『ぎり』

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ