セピア色に滲む光に

□my name…
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【あ】


「ししょ〜?これ、何ですか?」
「これ?」

ある日、リベザルが薬屋の棚から両手で抱えてきたのは、アヒル型の瓶。
中にはカラフルなマーブル模様が詰まっていた。

「あれ?何だっけ」
「何だっけって…」
「ちょっと開けてみて。多分、大丈夫だから」
「た、多分って…大丈夫じゃなかったら、どうなるんですか!?」
「んー、その中身が、自我を持ってスライムのようにリベザルの身体に…」
「うわわっ、い、いやだっ!!」

危うく落ちそうになった瓶が、ひょい、と横から取り上げられる。

「わーん、兄貴っ!スライムがぬるぬるって俺の中にずぶずぶうわー!!」
「リベザル、大丈夫だから」

頭を2度ほど撫でられて、リベザルの呼吸が幾分落ち着くと、ザギがおもむろに向き直る。

「で?秋、これは一体何なんですか?」
「記憶にゴザイマセン」
「とぼけないで下さい」
「ホントにわかんないんだって。だからちょっと開けてみてくれって言っただけなのに」
「なら、秋が開けてみて下さい」

そう言って、カウンターに瓶を置く。
ごと、と少々重そうな音がした。

「まったく、2人して横着者なんだから」
「それとこれとは話が違います」
「同じようなもんだろ?」

ちら、と上目遣いにザギを見てから、蓋を開ける。
蓋の固さからして、どうやら自分が閉めたらしい。

「!…何か、色んな匂いがします」
「色んな?」
「甘いのと、苦いのと、葉っぱみたいなのと、それから…」
「それから、何だよ?」

2人の視線に気付いて、少し目を泳がせた少年は、小さな声で言った。

「師匠が喉飴を作ってたときの匂いです」
「あぁ!」

ぽふ、と手を叩く。

「これ、ザギチェックで落とされた飴の残骸だ。面白いから瓶に溜めてたんだよな」

すっかり忘れてた、と笑うと、ザギが眉を寄せた。

「昨日は店がお休みで、冷房を入れませんでしたから、溶けてしまったんですね」
「…な〜んだ」

ほっとした様子のリベザルを見て、思わず悪戯心が出る。

「所詮、飴だからな。また溶かして固めれば、立派なキャンディが作れるぞ。お前にやるよ」

え、と一瞬喜んだ赤毛頭に再び手を乗せると、ザギが営業スマイル全開で言った。

「飴とはいえ、仮にも薬なんですから、処分はきちんと自分の手でなさって下さいね」

爆破処理も止めて下さい、とまで付け足された。
…ちぇ。



『あめ』

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