セピア色に滲む光に

□morning song
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何故だか、ちゃんとした時間に目が覚めた。
陽射しは世界が未だ朝だと示していて、キッチンの方からは座木が作る朝食の香りが漂ってくる。
秋は、ぼんやりする頭で何気なく、自分の猫っ毛を梳いた。
袖が捲れた腕に、ひやりとする冬の空気を感じて、慌てて布団を頭の上まで引き上げる。
もう一眠りしようかと、意識を手放しかけた瞬間、扉の外から声が聴こえることに気付いた。

否、ずっと聞こえてはいたのである。
ただ、それが自分の部屋の前で、自分に向けられていると思わなかっただけで。


「はっぴ ば〜すで〜 とぅーゆーう♪」

…それは、日本人なら誰もが知っている歌。

「はっぴ ば〜すで〜 とぅーゆ〜ぅ♪」

少年特有の高い声で、繰り返し歌っている。

「はっぴ ばーぁすで〜 でぃーあ し しょ〜ぉ♪」

…すっかり、目が冴えてしまった。

「は〜っぴ ばーすで〜 とぅ〜ゆ〜う♪」


がちゃ。


「!師匠、おはようございます!!」
「…おはよ」
「あ、あのっ、お誕生日、おめでとうございます!!」

ぶんっ、と音がしそうなくらいに勢いよく、リベザルがお辞儀をした。
その小さな背中を眺めながら、何気なく左手を耳の後ろにやる。

「…よく覚えてたな」
「そりゃあ!」

以前、1度だけ自分の誕生日を教えたような気はするが、まさか覚えていたとは思わなかった。
下げるときと同じくらい、勢いよく顔を上げた少年は、誇らしげな満面の笑みで。
ただ、頭に血が上ったのか、勢いに負けて赤い顔をふらふらさせているのは、相変わらずの詰めの甘さだ。

「でも、どーせ歌うんなら、感動で号泣させるくらい上手くないとな。目覚めがお前の歌じゃ、夢がない」

うんうん、と腕を組んで頷く。
ふざけているのはリベザルにも一目瞭然だったが、それでも少年は無意識に眉を寄せた。

「し、ししょ〜」

呼び掛けに聞こえないフリをして、くるり、とリビングに向かう。
後ろ手で赤毛頭をかき混ぜて、聴こえない位の声で、そっと呟いた。

「ありがとな」

「!師匠っ!!」

しっかり届いたらしい声に反応して、リベザルが飛び込んでくる。
背中を向けたまま、ひらりと避けると、むっとした顔で見上げてきた。
自然と頬が緩む。
リビングの扉を開けたら、暖かな空気と共に、座木が眩しそうな笑顔を見せた。


 ≪Fin.≫
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