セピア色に滲む光に

□14,February
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久々に1日中降り続いた雨の名残を避けながら、家路を急ぐ。
既に止んではいるものの、それが夕方だったので、水溜まりがあちこちで街灯を反射しているのだ。
バイトが終わって自宅が見えてくると、零一は今日も無事に終えたな、と息を吐いた。

「じゃんじゃかじゃん、じゃん、じゃ〜ん」

突然、調子外れなファンファーレと共に、聞き慣れた声が背後から聞こえた。
今日、最も聞きたくなかった声でもある。
せっかく無事に今日を終えられそうだったのに、と零一は小さく舌打ちした。

「あ、ゼロイチ、何で無視すんのさっ」

気付かなかったことにしたい。
振り向いたら、満面の笑みでとんでもないものを差し出されるような気がする。

「ちょっとー、ゼーローイーチー?」

ゼロイチって呼ぶな!と叫びたい衝動を必死に押さえ込んで、零一は歩く速度を上げた。

「聞こえてるんでしょ?ゼーローイー「うるさい!近所迷惑だろ、大声出すな!!」

限界だった。
思わず振り返ってしまった自分が情けない。

「そう言うゼロイチの声の方が大きいと思うけど?」

きょとん、と見上げてくる秋は、夜道だと色素の薄さが際立って見える。
動かなければ人形のようだな、と今更ながら、ぼんやり思った。

「何ぼーっとしてんのさ?あまりの寂しさに、ネジが外れちゃったの?」
「…何で俺が寂しいんだ」
「だって今日はバレンタインなのに、ゼロイチ女の子からチョコ貰ってなさそうだから」
「ほっとけ」

実はバイト先の店長が、売れ残り品からチョコを持たせてくれているのだが、それさえも秋はお見通しなのだろう。
それに、特に見栄を張る理由も見当たらなかった。

「だから僕が、そんなゼロイチを想って、一肌脱いでみました!」
「脱がなくていい」
「もう脱いじゃった」

素早く拒否するも、秋はどこ吹く風で、えへ、と笑う。
そして右手を零一の顔前にやると、ぱちん、と指を鳴らした。
高い音に、思わず瞬く。
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