セピア色に滲む光に

□期限は明日
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内職として製作していた造花の納品分が完成した。
納期まで、まだ余裕がある。
連休中に思ったほどバイトが入らなかったので、連休最終日の今日までに思いのほか、内職がはかどったのだった。
部屋中に広げていた出来立ての花々をダンボールにまとめ、零一は満足気に息を吐いた。

ぴんぽーん

「はい」

条件反射で返事をしてしまったが、外の静けさに、ふいに悪寒を感じる。
こういう時は、嫌な予感ほど当たるもので、逆に良い予感など当たった記憶のない零一は、先程の自分の返事がなかったことにならないかと黙って考え込んでいた。

ぴんぽーん

「……」

ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん

「……」

ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
「ゼーローイーチー?返事したんだから、責任持って開けなよー」
ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん

やっぱり聞こえていたか。
小さく舌打ちして、抗う事を早々と諦めると、零一は玄関の鍵を開けた。
いつもなら、勝手に扉を開けてくる訪問者は、しかし今日はじっと扉が開くのを待っている。
首をかしげながらも、零一が扉を細く開くと、素早く隙間に靴のつま先が差し込まれた。

「な、…っ!?」
「驚くのは後にして、早く開けて」

どうやら、手がふさがっているらしい。
珍しいこともあるものだ、と扉から手を離すと、差し込まれた片足の力で、ぐい、と扉が開いた。

「もぅ、気が利かないな。どうして開けてくれないのさ」
「お前を迎え入れるつもりがないからだ、秋」

抵抗しなかっただけ、ありがたく思え、と心の中で付け足す。
ぶぅ、と膨れた顔をする秋は、表情のせいで、外見の幼さに磨きがかかっていた。
その手には、大きな白い箱。
その形で、そこまで大きなサイズを零一は見たことがなかったので、思わずしげしげと眺めてしまう。

「はい」
「あ?ぅわ、重…っ」

ひょい、と出された白い箱を何気なく受け取って、その重量感に驚く。
どうみてもケーキやお菓子の箱なので、大きかろうが、たかが知れていると思ったのが甘かったらしい。

「おい、秋。これ」
「今日は特別な日だからね、スペシャル特注品」

零一が驚いているうちに、秋はその横をすり抜けて、慣れた様子で部屋に上がっていった。
部屋の隅に寄せてあった、数が揃ったばかりの造花のダンボールに、秋が無造作に手を突っ込む様子を見て、思わず語気が荒くなる。

「こら秋!勝手に触んなっ」
「あ、ごめん」

ぱっと顔をあげた秋に、予想外なほど素直に謝られたので、何だか拍子抜けしてしまった。
一気にしぼんでしまった怒りの余韻が、向けるアテを失って自分の胸にもやもやと落ちる。
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