セピア色に滲む光に

□星合いの夜
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夜の涼やかな風が、少年の短い赤毛を揺らす。
いつもと違う縁側に、ちょこんと正座したリベザルは、首を伸ばすようにして一生懸命夜空を見上げていた。

「あそこに明るい星が2つあるでしょう?左側が彦星で、右下のあれが織姫じゃなかったかしら」
「あの大きい星ですか?」
「そうそう、あれよ、あれ」

ぺたり、と頬をくっつけて視線を揃えた総和が、リベザルの指を追って頷いた。
総和の家の周囲は、閑静な久彼山と比べても明るい建物が少ない。
それでも、さすがに天の川を視認することはできなかった。
しかし、2人の視線の先には、確かに白く輝く星が2つある。

「あの2人の間には、天の川が流れてるんですよね」
「そ〜よ」
「でも、今日はあそこを渡れるんですよね」
「そ〜ね」

総和の温かな体温が離れて、空から隣の総和に視線を移す。
風呂上がりで解かれた長い赤毛が、夜の闇に沈んで、どことなく印象が違って見えた。

「ん?リベくん、どーかした?」
「あ、いえ、別にっ」
「もしかして見惚れちゃってた?」
「へ、みと…?」

総和のおどけた仕種に、リベザルが目を瞬くと、総和の方が照れたように笑った。

「やーね、冗談よ〜リベくんったら」
「?えっと、総和さん、昼間と感じが違うなって思って」
「ふふ、ありがと」

伸ばされた大きな手がリベザルの髪を撫でる。
ふわり、と目の前の笑顔と同じシャンプーの香りが立ち上った。

「天の川って、とっても大きな川なんですよね」

数日前、秋に話してもらった七夕伝説を思い出す。

「そうねぇ。なんせ、川幅はこの銀河系だもの」

何気ない調子で、とんでもない言葉が出てきた。
人差し指を頬に添えたポーズをしているが、話している内容は全然可愛くない。

「え、えと、ぎんがけいって、宇宙のことじゃないんですか?」
「そーよぉ、リベくん、よく知ってるわねぇ」
「えへへ…って、え、じゃあ天の川の幅って、宇宙の端から端まで行くくらい広いってことですか?」
「うーん。まぁ、そういうことなのかしら」

咄嗟に、宇宙空間をクロールで進む織姫と彦星が頭に浮かぶ。
但し、スケールが大きすぎて、リベザルには人形劇みたいな想像しか出来なかった。
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