水平線、飛び越えて

□甘い嘘
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「このままずーっと、高校生でいられたら良いんですけどねぇ」

それは、卒業間近な生徒がよく口にする世迷いごとで、高2であるハズの彼女が発するには少々、気が急いているかもしれなかった。

「あんた今2年だろ。卒業までまだ半分あるじゃないか」
「なーに言ってんですか。ここまで、あ!って言う暇もなかったんですよ?」

だからこの後も、わ!とか言う暇もないに決まってます。そう言って、胸を張る。
突然何を言い出すんだか、と怪訝な顔になった少年に気付いて、ひよのが首を傾げた。

「鳴海さんは、高校生活楽しくないんですか?」

覗き込んでくる真っ直ぐな視線から逃げるように、窓の外を見る。
薄青い空には、境界のはっきりしない雲が、目を凝らさないと分からない程のゆるやかさで動いていた。

「俺は、あの雲みたいに生活したいんだけどな」

ぼそ、と呟いた言葉を受けて、ひよのが彼の視線を追う。

「…何、年寄り染みた発言してるんですか」
「実際は、あ、とか、わ、とか言う暇もなくて、心底困ってるんだ」

皮肉を込めて、あんたのせいだ、と言ってやると、何をどう解釈したのか、ひよのがぱっと笑った。
その瞬間、周りの空気が明るくなったように感じたのは、確実に気の迷いだ。

「それはつまり、今の生活が楽しくて仕方ないってことですね!」
「…何をどう捉えたら、そうなるんだ」

呆れた振りをしながら、さりげなくついた頬杖で口元を隠す。

「だーいじょうぶですよ!少なくとも、私の卒業まであと1年ちょっとありますし」
「それのどこが大丈夫なんだよ」
「何なら、卒業しても遊びに来てあげます!」
「ちゃんと自分の生活をしろ」

くすくすと嬉しそうに肩を揺らす少女に聞こえるように、大袈裟な溜め息をひとつ。
窓の外では、雲が僅かながら形を変えているところだった。


い嘘
でたらめな世界の中で


Fin.

Ayumu×Hiyono/200805xx
title from:液体窒素とい花



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