水平線、飛び越えて

□甘い嘘
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「ねぇ彼女、1人?」

声の掛け方が古臭いな、なんて人事のように思っていたら、不意に肩を掴まれた。

「ちょっと、無視はないんでない?」
「…あたし?」

まさか“彼女”が自分だとは思っていなかった。
そう思ったのが顔に出たのか、相手の男が人懐っこく笑った。

「暇なら一緒に遊ぼうよ」
「いや、人待ってるから暇じゃないし」
「人って彼氏?」

探るような目を向けられて、ぐ、と詰まる。

「そ、そうじゃないけど」
「ならいーじゃん。行こ」
「いや、」

正直、こういうとき何て言えばうまく逃げられるのか、よく分からなかった。
蹴り飛ばして逃げようかとも考えたが、生憎今日はスカートだ。
大体、こんなに人通りがある中で暴力に訴えることはしたくない。通っている大学だって、近いのである。
しかし、するりと肩に手を回された瞬間、理性が飛びかけた。

「悪いな、亮子。待たせた」
「こ、香介」
「なんだぁ?あんた、誰」

じろり、と送られた舐めるような視線を気にも留めず、亮子の腕を引き寄せる。
突然のことで、思わず手を離した男に、香介が冷えた一瞥を返した。

「そんな簡単に手ェ離しちゃうようじゃ、捕まえとけないぜ?」
「は、てめぇは何なんだよ」
「コイツの彼氏」

さらりと言い置くと、亮子の手をとったまま歩き出す。
背後で何か言っている声がしたが、全て無視した。

「ちょ、香介、痛いよ」
「あのなぁ」

いつもより低い声に、亮子が身体を強張らせる。
それが手から伝わったのか、香介が面倒臭そうに息を吐いて、声の調子を明るくした。

「あぁいう奴には、嘘でも何でも“彼氏がいる”とか言っとけばいーんだよ」
「嘘でもって…」
「別に俺と一緒のときじゃなくてもよ、呼べば迎えにくらい、行ってやるから」

口調はいい加減だが、内容は全て本気だということは分かっている。
だから返事をする代わりに、繋がれた手を、ぎゅっと握り返しておいた。


甘い
ちょっとだけ未来


Fin.

この2人は何となく、大学に入っても恋人未満が続いているような気がして仕方ない。
Kosuke×Ryoko/200805xx
title from:液体窒素とい花



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