水平線、飛び越えて

□見上げた空は
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ふと見上げた空は、期待したほど青くも眩しくもなくて、重たい気分を晴らすには全然足りなかった。
こんな日くらい、空が味方してくれたっていいのに。
早々に視線を地上に戻して、足元の石を蹴ってみる。
ローファーの先を掠めた石は小さくカーブを描いて、情けないほど近くで止まった。


「へたくそ」


背後から飛んできた聞き慣れた野次に、頬が引きつる。

「香介、うるさい」
「何だよ亮子、全然進んでねぇじゃねーか」

にやにやと笑っているのが、声だけで分かる。
あっという間に隣に並ばれて、咄嗟に顔を伏せた。こういうとき香介の身長が、私より高くなって良かったと思う。
それにしたって、表情を繕うくらいの時間は寄越せ。


「こーいうのはよ」

偉そうな口を利きながら、足元の石を香介のスニーカーが蹴る。
勢いよく飛んで行った石は、けれど近くの塀にぶつかって、勢いよく戻ってきた。

「あははは、へったくそー」
「うっわ、何だよこれ。石が悪いんじゃねーの?」
「んな訳ないだろ。それがあんたの実力ってことだよ」

私の憎まれ口を受けて、ぐっと言葉を詰まらせた香介に、さらに笑いがこみ上げる。
ふと見上げた空は、いつの間にか迫っていた夕暮れのオレンジが雲に映って、温かな色に染め上げられていた。



-end-

亮子ちゃんは多分、部活で良い記録が出なかったとか、そんな感じ。
香介くんは、ヘコんでいるときに何気なく現れて、さりげなく機嫌を上向きにさせてくれるようなイメージがあります。いざというときは兄貴なのですよ。
Ryoko*Kosuke/20080703.



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