水平線、飛び越えて

□誤解
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「誤解です」
「何がだ?」
「鳴海さんが気にして下さるのは嬉しいんですけど、はっきり言って、誤解です」
「だから、俺が何を誤解してるって?」

歩はだんだん面倒臭くなってきて、適当にあぁ分かった、とでも答えて帰ろうかと考え始めた。
それを敏感に感じ取ったらしいひよのが、躊躇するように2、3度周囲を見回してから、ひた、と歩を見据える。
ここはひよのが部長を務める部室なのだから、彼女が把握していない耳も目もあるはずなどないというのに。

「………」
「………」
「………」
「…おい」

先に歩が折れた。いい加減、何か言え。

「ホントに誤解してません?」

真剣な顔で念を押されても、何の話だかさっぱり見えない状態で、yesともnoとも言い難い。

「ほんっとー、に誤解なんですからね?」
「だから、何が誤解なのか、俺に分かるように教えてくれ」

ずずい、と詰められた距離を、肩を掴んで押し戻す。
手近にあった椅子に、半ば強制的に座らせると、ひよのが口をぎゅっと結んだ。
その表情を見て、話を聞き出せそうにないと早々に察した歩は、はぁ、と疲れた溜息を吐いた。

「分かった」
「…はい?」
「何だか知らんが、俺はあんたに対する誤解なんてない」

欲しかったであろう台詞を聞いている筈のひよのが、突然のことに瞬きを繰り返す。

「例えあんたが、どっかの物好きに気に入られてようが、どこの誰と一緒にいようが、俺はきちんと現実を見てやるから気にするな」

続いた言葉に、ひよのが固まった。

「…な、え、ちょ。鳴海さ、」
「俺としては寧ろ、相手の奴の方が心配だ。あんたキャッチセールスなんかに、どれだけ猫被ってやったんだ?」

片眉を器用にひょい、と上げて見せる歩に、勢い良く鞄が飛んできた。
避けかけて、ふとそれが自分の鞄だと気付いた歩は、慌てて両手で受け止める。
見事に顔面に向かってきたそれを下ろすと、既にひよのの姿はなかった。

「…何が誤解なんだか」

昨日の放課後、その一部始終を偶然目撃していた歩は、再び大きく息をつく。
誰もいなくなった部室を、ぐるりと見渡して鞄を持ち直した。

「……誤解した方が良かったのか?」

あれに限って、まさかな。と自分の考えをあっさり否定した少年には、乙女心など到底理解できる筈もなく。



≪誤解≫

20080630+0723+0804/Ayumu*Hiyono



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