水平線、飛び越えて

□ごめん
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「おさげさーん、ちょっとえぇ?」

いつもにこにこしている人が突然、神妙な顔で向かいに座ったので、ひよのは訝しげに眉間を寄せた。

「どうかしました?火澄さん」
「えーっと、おさげさんに一言」

ちょこん、と揃えた手を机に載せ、小さく首を傾げる。
その動作を見て、小動物みたいだ、などとぼんやり考えていたら、へにゃりと眉を下げて困ったように笑った。

「ごめんな」
「何がです」
「何や、とにかく色々、全部ごめん」

あまりに大雑把な謝罪に、ひよのは頭をフル回転させたが、何のことだかさっぱり分からない。
だから、少々苛めておくことにした。

「心当たりがありすぎて、どれを許したら良いのか分かりません」
「嘘やん!そんなようけ謝ることあった?」

色々、と自分で言ったにも関わらず、火澄が慌てて立ち上がる。
それを眺めていたひよのが、不意に顔を伏せたかと思うと、ふるふると肩を震わせ始めた。

「…おさげさん?泣いてんの?」
「ふ、ま、まさか…お、可笑しくて、ふふ」

何がツボにはまったのか、お腹を押さえながら机にコツリ、と額をつける。
ひとしきり笑って、目尻を拭いながら顔を上げると、火澄が何とも言えない顔で固まっていた。例えるなら、息を呑んだ瞬間のまま、息を止め続けているような。

「…火澄さん?」
「…はっ、えっ、何?」
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、平気。ちょっと息すんの忘れてもーた」

…本当に止めていたらしい。
ひよのの呆れた視線に気付いたのか、火澄があはは、と情けなく笑った。

「でもな、ホントに言いたい言葉は、別にあんねん」

さらり、と明るい声で言われて、続きを促そうとした瞬間、扉が開く。

「お、歩〜」
「あら鳴海さん。遅かったんですね」

ふとひよのが目を戻すと、第三者の登場であっさり切れてしまった会話を、火澄が気にした様子はなかった。
大した話ではなかったのかと、ひよのが1人納得したところで、火澄と目が合う。

「じゃあ続きは、またの機会っちゅーことで」

揃って怪訝な顔をする歩とひよのに、にこりと屈託の無い笑みを見せる。
またの機会なんて、来るかどうかも分からないけれど。



≪ごめん≫

言いたい事は、いつだって言えないまま。
20080630+0723+0804+20090528/Hizumi→Hiyono



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