♪ dream

□3 花と星の物語
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ある日の夕方
名前は勤め先の前で、
べそをかいている女の子を必死でなだめていた。

「あれ、名前ちゃん?」

パンを買いにきた山崎が声をかけると、
ホッとした顔で名前は顔をあげたのだった。

「この子だあれ?」

「うちの近所の子です。お雪ちゃんと言います。ね、お雪ちゃん?」

名前はしゃがみこんで、目線を合わせながら言った。
山崎も名前に倣って、お雪の前にしゃがみ問いかける。

「お雪ちゃん、はじめまして。どうして泣いているのかな?」

お雪はただ泣いて首をふるばかりだ。
そこで名前は山崎に事のあらましを説明した。

「実は、ここ数か月、
うちの近くの花壇と生垣に毎晩花泥棒が出るんです
わたしとお雪ちゃんはずっとその花の世話をしてきました。」

「もしかして、その花を盗っていくやつがいるの?」

「そうなんです。
今朝お雪ちゃんがその花壇を見たら、またお花が取られていたみたいで」

かわいそうに、と名前はお雪の涙拭ってやった。

「この子のお母さんがお上に相談したんですが、
取り合ってくれなかったらしいんです」

山崎は泣きわめくお雪と名前の顔を交互に見て
「俺、明日一日自由だから夜見張っていようか」

と提案した。その途端、お雪はぱっと顔をあげる。

「おにいちゃん、泥棒見つけてくれるの?」

「ああ、見つけてあげるよ」

山崎はゆっくりとうなずいた。

「あたいも一緒に見つけていい?」

泣いたカラスがもう笑った、とはよく言ったもので、
お雪は顔中口だらけにして笑っている。

「夜中見張ってるんだよ。
お雪ちゃんは風邪ひいちゃうからだめ」

山崎は少しめんどくさそうに諌める。

「あたい、男子とかくれんぼも駆けっこもできるんだから大丈夫」

「まいったなぁ」

そこですかさず名前がお雪の肩に手を置いた。

「お雪ちゃんが一番花壇の手入れをしてくれているのに、
風邪ひいたら、その間、
わたしがお花枯らしちゃうかもしれないよ。
わたしがお兄ちゃんのお手伝いしてくるから、
お雪ちゃんは風邪ひかないように待っててね」

「……うん、わかった。ちゃんと泥棒見つけてね。」

不承不承ではあったものの、お雪はうなずいた。
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