♪ dream

□5 白詰草の約束
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「ちょっと休憩しようか」


山崎は
しりもちをついたままの名前に声をかけた。


「はい」


名前は静かに頷き、
山崎は名前の横にどさりと腰を下ろした。


「あ、山崎さん。
そこにたくさん白詰草が咲いてるので
 こっちに座ってください」


たしかに、座ろうとしていたところには
たくさんの白詰草が咲き誇っていた。


白くて、
丸くて、
やわらかそうで
まるで名前ちゃんみたいだ。
と言いたくなったけれど、
恥ずかしくて口には出せなかった。


「山崎さんはミントン歴長いんですか?」


「うん、長いよ」


麗らかな太陽の光を浴びて
そんな他愛もない話をしていた。


俺は真選組の監察を任されている青年。
彼女は攘夷派として真選組に斬られた父をもつ少女。


どう考えたって、
彼女が自分を受け入れてくれるはずなどないと思っていた。


だから、
彼女が真選組であることを知ったときは
彼女との別離のときだと思っていた。


「だから、
わたしすごく可笑しくなっちゃって――」


いつのまにかミントンの話から
名前がバイト先であった面白い話になった。


土手の上手にある歩道の方から、
子どもたちが母親に連れられてはしゃぐ声が聞こえた。


「それで、どうなったの?」


山崎は名前に話の続きを促した。
ころころと鈴が鳴るように、
名前は山崎に語り出した。


二人に吹いてくる風が温かくて
まるで空気まで安穏として
ホッと溜息をついたのではないかとさえ思えてくる。


男所帯の真選組ではありえない心持だった。
起床から就寝まで
訓練、飯、便所、訓練、
または
任務、あんパン、便所、任務の日々だったからだ。


だから山崎は名前とこうして、
週末に出かけて、ミントンをして
名前の他愛もない話を聞くのが一番好きだった。


「よっ…と」


山崎はごろんと芝生の上に寝転がり、
頭の後ろで手を組んだ。
名前側の手を枕にをして、
太陽のように降り注ぐ名前の声を
飴を舐めるように楽しんだ。



何でも巷では
雲雀を買うのが流行っているらしい。


一番いい声で鳴く雲雀を大切に育て、
晴れて天気のいい日には、籠をあけて出してやる。

すると、雲雀は天高く舞い上がって
この世のものとは思えない良い声で鳴くそうだ。

美声を持つ雲雀は
俺たちには手もでない高額な値段で売り買いされるらしい。


枕にしていない方の手で名前の手を握った。
これだけで真っ赤になってしまう名前が
初々しくて、可愛らしく思えて
本当に自分だけの雲雀のように思えた。


「なんで話すの止めちゃうの?
 続きは?」


「でも、手……」


「手がどうしたの?」


山崎は名前を困らせるのを楽しむように
低い声で言う。


「山崎さんって、いつもやさしいのに、
ときどき、すごく――」


「すごく、何?」


「すごく意地悪」


こんな可愛らしい雲雀が俺のところに来てくれた。
けれど、真選組で真っ赤に汚れた手で
この雲雀を包み込んでもいいのだろうか?


こんな真っ白で眩しい存在を
こんな豆だらけの人殺しの手で包み込んでいいのだろうか?


頭の片隅でそんなことを思いながら、
何かにすがりつくように握り返してくれた名前の手を
強くつかんだ。
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