♪ dream

□5 白詰草の約束
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だいぶ日が落ちてきた。
だんだん空が茜色に染まって、
東の方角には灰色の雲が見えた。


「それでね、局長が仕事を放って
いつもその女性を追いかけまわしているから、
副長がいつも探しにいくんだよ」


「ふふっ」


名前が笑った。


山崎が話している間、
名前は近くの白詰草を摘んでは
縄のように編んでいった。


「何作ってるの?」


「白詰草の冠です」


「これ、白詰草って言うんだ」


よく幼い頃、女子が頭に載せてたアレだ。

どうやってあんなものを作るのかと
ずっと不思議だったが、
名前は一本一本巻き込むように
手早く作っていく。


「花言葉は約束です」


「約束。
 そして、わたしを思って」


「約束、と、わたしを思って?」


そんなに「わたしを思って」を編みこんだ冠を作って
これ以上、俺をどうしたいの?と山崎は思う。


遠くから名前をストーキングしているのも
悪くはなかったが、


ミントンをしたり、
ずっと他愛ないことを話したり、
名前が白詰草で冠を作るのをみている一日。
こんな一日もいいな、と思う。

いや、できるならば、
こんな一日がずっとずっと続けばいいと思う。


「俺も作ってみたい」


山崎は芝から起き上がって、
名前を見よう見まねで冠を作りはじめた。
「俺を思って」なんて恥ずかしくて言えない分、
ありったけの「俺を思って」を白詰草を編んでみたい。


「こうするんですよ」


「え、ちょっと待って。
 名前ちゃん早すぎでしょ。
 ちゃんと俺にも分かるようにゆっくりして」


名前は先ほど突然手を握られたことへの
仕返しをしているつもりか、
一向に冠を編む速度を落とさない。


「ちぇ」


ふてくされて、また芝生の上にごろんと寝転がった山崎の視界に
四枚の葉の白詰草が入ってきた。
おもわず、摘み取って


「あ、見て、名前ちゃん。
 ほら、これ、四つ葉!」


と名前に見せる。
名前は手をとめて
目を細めて笑った。


「めずらしいですね!
四つ葉の花言葉は…なんだっけ?」


「へぇ、葉っぱなのに花言葉があるんだ」


しばらく、思い出せないようで
クローバーを持ちながら
悶々としていたようだったが、
ふっと顔をあげて、
まっすぐに山崎の顔を見ながら言うのだった。


「幸福。
 そして、私のものになって」


名前はまじまじと山崎を見つめ
クローバーを返した。


まるで、
プロポーズされた女の子のように
山崎は何も言えず、
返されたクローバーを受け取るしかなかった。


「ふふふ、今どきっとしました?」


名前の先ほどの仕返しは続いているのだと
山崎はやっと気づいた。


「ほら、山崎さん。
 冠が完成しましたよ」


夕日の茜色が周囲を包んでいる。
どうか、自分の顔が赤いことが
名前に気づかれなければいい、
そんなことばかり考えていた。
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