♪ dream

□監察の仕事(前)
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山崎は土方の部屋に呼ばれていた。
おそらく、先日の獄舎の火災によって
脱獄した攘夷浪士たちの件だろう。
その中には、攘夷浪士の中でも大きな派閥の頭だった者もいる。
浪士たちが江戸から出奔するまえに
何としても取り押さえなければならなかった。


土方は緊張した面持ちの山崎の前に
分厚い書類の束をどさりと投げてよこした。


「捕えられていた攘夷浪士は今回の獄舎の火災で
江戸のどこかに逃走、潜伏していると思われる。
これが逃げ出したやつらの人相書きだ」


土方は眉をひそめ、自分用の書類を
苦虫を噛み潰したような顔で凝視していた。


「こいつらの大部分はおそらく
後ろ盾になっている桂と連絡をとるはずだ」



土方はおもむろに、束の中の一枚を取り出した。


「しかし、この男――」


 人相書きの一枚を指し、


「この男は江戸に身寄りがなく、他のやつらたちとの繋がりも薄い。
おそらく連絡を取るとしたら、こいつの仲間であった名字の娘だ。
この娘とは投獄前に親交があったようだし、間違いねぇだろう」


「名字…?あの討ち入りのときの?」


山崎はたずねた。


「ああ、そうだ」


土方は溜息まじりで、煙草のけむりを吐いた。
山崎は書類の方に顔を落しながら、目線だけを土方に向けた。
ほんの少し憔悴しているように感じるのは気のせいだろうか?
山崎はそう思って首をかしげた。


もう遠い昔のこと。
終わったこと。
色褪せて、もう心の奥底にしまいこんでいたことだったのだろうか。
今回の事件によって
心の深いところにしまいこんだ物をいきなり暴かれたような、
何とも嫌な気持ちにされられたのかもしれない。
山崎はそう思った。



「娘のおおまかな情報と人相書き、渡しておくぞ。
山崎、しばらく、この娘を張り込め」


渡された人相書きには、
攘夷浪士を父に持つようには見えない、ただの町娘の姿が映っていた。


「名字名前。
数えで十七歳。未婚。職業フリーター。
身長、体型、容姿、すべて平均的。
どこにでもいる十七歳だなぁ。
俺に劣らず地味だな」


山崎はそう呟いた。
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