♪ dream
□6 雨の音
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「今日の天気は雨。
降水確率は100%です。
明日の天気も雨、しばらく雨降りの日が続くでしょう」
何気なくつけていたラジオから、天気予報が山崎の耳に入ってきた。
山崎の貧乏ゆすりのために、伸ばしたアンテナがかすかに揺れている。
窓を閉めていても、部屋の中はじとじとと湿っていて、
通気性の悪い隊服が体にまとわりついた。
降りしきる雨が
窓の外から聞こえるはずの音を遮ってしまうせいか、
ラジオの声がほわんほわんと部屋の中に響き渡る。
山崎は、窓のレールに肘をかけながら、
敵のアジトに目配せをしつつ、あんぱんを頬張っているところだ。
商店街に面した、この狭く古くさいアパートの一室で
偵察をはじめて幾日が経っただろうか。
眼下にあるアジトは、いまだ何の動きも見せなかった。
今回の任務は、逃走中の攘夷浪士がアジトに戻ったところで
すぐさま隊と連絡を取り、浪士を捕縛することだ。
しかしながら、一向に浪士は現れず、敵のアジトにもまったく動きがない。
何の変化もないのっぺりとした毎日が過ぎるばかりだ。
「しばらく、雨、かぁ。
困ったな、傘をさされると、ホシの顔が見づらくなるんだよなぁ」
電気もつけていない薄暗い部屋の中で、
山崎はぼんやりと一人ごち、食べ飽きたあんぱんを齧った。
先ほどから、ちびりちびりと食べているせいか、あんぱんは一向に減らない。
「くっそー、明日も明後日も、明々後日も、
永遠に牛乳とアンパンしか食えないような錯覚に陥ってくるな…。
カレー食いたい」