♪ dream

□6 雨の音
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昼過ぎだというのに、
空が厚い雲に覆われているせいか、あたりは暗い。



商店街の店々から漏れる蜂蜜色の光が、
雨にぼんやりと霞んでいる。
その光を艶々と浴びて、
色とりどりの傘がふわりふわりと行き来していた。



傘の持ち主たちは足元を気にして俯いているせいか、
ここからはどんな表情をしているのかなんて、まったく分からない。



早く目的地にたどり着きたいのか、
色とりどりの傘の群れは川を流されていくかのように
現れては消えて行った。



その傘の下に名前の顔があるような気がして、
思わず視線を注いでしまう。
優しい色合いの傘が
ゆったりとした歩みで甘味屋の前を通りすぎて行った。



「あれ…もしかして名前ちゃん……?」



傘の陰から瞬間、
垣間見えた髪型が名前に似ていたような気がして、
山崎は窓を開けて、その姿をじっと見つめた。



「…なわけないか」



果たして、傘の下にちらりと見えた顔は、
山崎の望んでいるような顔ではなかった。
がっかりしながら、口の中に詰め込んだあんぱんをやっとの思いで呑みこむ。
そして、乾いた口中を飲みあきた牛乳で潤した。



「…って言ったって、
 任務中じゃ声をかけるわけにもいかないしな」



山崎が任務中に、嫌々ながらあんぱんを食べるように、
どんな状況でも任務中、自分に与えられたことを完遂するのが筋だ。
だから、たとえ名前が山崎を見つけ、声をかけてきたとしても、
任務中だからとことわって、涙をのんで、その場を辞去するだろう。



けれど、
名前のやわらかな表情を一瞬でも垣間見られるのであれば
この永遠とも思えるような孤独な時間が少しでも薄らぐ気がしたのだ。



「あー、クソ浪士ども!
 早く現れろってんだ。
 こっちは早く帰りたいんだよ!」



山崎は、顰めっ面をして無理やりアンパンの最後の一欠片を口の中に押し込んだ。
ごきゅごきゅと牛乳を飲み干す音が狭い部屋の中にうら悲しく響いた。



そして、空になったあんぱんのビニール袋を
床に投げつけ、悪態をついたときだった。
商店街のスーパーの前でよく見知った顔を見つけた。



「ん?チャイナ娘?」



さきほど目で追っていた傘の横を、
今どき珍しい番傘と赤いチャイナ服が通りすぎて行く。



「――と、万事屋の旦那と新八くん?
 何してんだろ?」
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