★ dream

□アザミ(前)
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「えーと、つまり、
その子の試験の合否や剣の腕前は
真選組の面子にかかわってくるってことか?」

「そうなると、
やっぱり、隊長クラスが稽古をするのが妥当だよな」

「真選組随一の剣の腕前…。」

「しかも、いつも暇そうにしている…」

こそこそと耳打ちしあった隊士たちの半分は
目線を床に落とし、残りの隊士たちは沖田をちらりと見遣った。



しかし、
当の本人である沖田は
こっくりこっくりと船を漕いでいる。


土方はその態度にカチンときたのか、
わなわなと手を震わせて、
沖田を起こそうとした瞬間、近藤がそれを制した。


「総悟、
お前が狸寝入りしているのは分かってるよ」


面倒事から逃れようと、狸寝入りを決め込んでいた沖田だったが、
どうやらこの手も通用しないと悟ると、
沖田はゆっくりと目を開けた。


近藤の珍しくも真剣な表情を前にして、
沖田がどのような反応をするのか
隊士たちは固唾を飲んで見守っている。


「狸寝入りなんかしてませんぜ。
 正真正銘の居眠りでさァ」


「で、今の話、どう思う?」


「すっかり寝ちまったみてぇで…。
一体、何の話ですかい?」


「お前…、
近藤さんが珍しく真面目な話をしてるってのに!」


土方は沖田の態度に眉を顰めて、腰を浮かせた。
静寂の中、
土方の腰に差した刀が床に擦れて、かちゃりと鳴った。
緊張の糸がピーンと張りつめる。


「――おいおい、“珍しく真面目”は酷いんじゃない、トシ?
俺、いつも真面目だよ?
まあいい。朝議はひとまず、これで終いだ。
 みんな、今日もよろしく頼むな」


この重苦しい空気の中、皆一様に体を強張らせていたが、
近藤のこの言葉で、ふっと肩の力を抜き、
隊士たちはそれぞれの持ち場に移っていった。


「総悟、お前は残ってくれ」


うっすら笑みを浮かべ、腕を組んだ近藤を前にして
沖田は厄介事が自分に降りかかってくるのを感じた。


普段なら生意気な口答えの一つでも返すところだが、
連日の暑さのせいか
乾ききってくっついてしまったくちびるを
開く力が沖田には無かった。


「あー、いやに喉が渇きやがる」
そう思って、沖田はまた目を閉じた。


うだるような部屋の中、残ったのは
近藤、土方、沖田の三人だけだ。
南を向いた縁側から乾ききった熱風が
そっと沖田の前髪を揺らした。
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