07/22の日記

22:14
「風立ちぬ」感想
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見てきました。
ちょっとしたネタバレがあるので注意をお願いします。









「風立ちぬ」は、噂に聞いていた通り、
小さな子どもには向いていないかもしれません。
話が淡々と進んでいくし、ときどき主人公の想像や夢が入るので、
ちょっと分かり辛いところがあります。

また、時間軸がはっきりしないのも辛いところです。
たとえば、日清戦争の最中であったり、
関東大震災であったり、
第二次世界大戦が勃発したりしている間の話であるということがもう少し詳しく説明されていれば、
良かったかなと思います。
パンフレットには、そういった作品内の年表が記されてあるのですが、
そういう補完は作中でやってほしいですね。

小説であれば、分かりにくいとき、
一時中断して当時のことを調べながら読むことはできる。分かり辛ければ、すぐに読み返すことができる。
一章ごとに中断して余韻を味わうこともできる。
けれど、映画は時間を止めることはできません。
そういった意味で、惜しいなぁと思いました。

それに関係して、
シーンが断片的に並べられすぎているように思えます。
今風に言えば「フラグ」や伏線が無いと言えば良いのか。
完成した物語というのは
因果の連続でできていると考えているのですが、
そういうのが「風立ちぬ」にはなかったように思えます。
たとえば、菜穂子が手紙を置いて山へ帰ってしまう場面では、
妹が「体調が悪いのに無理しているのよ!山へ帰してあげて!」と言っていることから、
ああ、やっぱりキツいんだなーくらいは分かるのですが、
菜穂子の顔色は最初から最後まで健康的でつやつやで
山に帰るのは唐突に思えます。

普通であれば、
だんだんやつれていく菜穂子→ついに喀血!
くらいの描写をして、
フラグを立てておいて山に帰らせると思うのですが、
そういうのが無かったのが印象的でした。
つまり、
エンターテイメントとしての映画に不可欠な手続きを踏んでいない。
これが、この映画が小説っぽいと感じた理由のひとつです。
そういった意味で、ちょっと変わった映画だったなーと思いました。


もし円盤を出すにあたって
ジブリさまにちょっと手を加えていただけるなら
もう少し細かく伏線を張って、そしてシーンの時代をはっきりさせる。
そして、庵野監督の独白を入れる。
主人公が死にますよー、走馬灯見てますよーっていう設定で、庵野さんが
「僕が菜穂子と初めて出会ったのは電車の中だった。そう、関東大震災が起こったあの日だ」
とか何とかぶつぶつ言いながら物語が始まるといいかなーとか思うんですが、
そうなるといかにも物語です!って感じがするな。
それが嫌だったのかな。
うーん、素人には到底計りしれない何かが秘められているのか…。
まぁ、こんな文句ばっかり言ってる奴が批判している部分こそ、
実はこの映画で評価されているところであるとかってオチはよくあることなので、
生温かい目で見てやってくださいw

という分けで、
ここまでブーブー文句ばっかり言ってましたが、
いいな、素敵ーと思ったところも多々あります。
まず、主人公が飄々としていていいですね。
「牛は好きだ」とか、ああいうところが。
設計者である前に、芸術家っぽいところがいいですね。
(ただ、声だけは許せん!
 声優じゃなきゃダメとか言うつもりは毛頭ありませんが、
 さすがに年齢相応の役者を使ってほしいな。
 明らかにおっさんなので若者らしい人をたのんます)

それと、SE?ですかね。
地震や飛行機のエンジン音に人の声を使っていて
不気味でした。
ああいう表現の仕方もあるのかと思って関心しました。
ただ、人の声の不気味さが
飛行機の音に使われるのが意外でした。
宮崎さんは飛行機に対して、好意的な感情を持っていると思っていたので。
でも、今考えて見れば、人の声は戦闘機にしか使われていなかった気がします。
つまり、地震や戦争に対してマイナスの表現をするときに
人の声を用いていたのかなーと思います。


あとは、飛行機がかっこいいです。
メカのことはまったく分かりませんが、
鳥人間コンテストは良く見ます。
ああいう飛行機の美しい線や
飛ぶか飛ばないかの瀬戸際が好きなのですが、
そういった心をくすぐりました。


恋愛パートは、うーん、
わたしにとっては魅力的ではありませんでした。
一目惚れにしても、もうちょっとやりようがあったんじゃないかなと思います。
それに、
いきなり父親に婚約したい宣言→OK
愛してます、結婚してください→OK
会いたい!山下ります→OK
離れに菜穂子を住ませてください→ダメ→じゃあ結婚します→OK
って何なんですか。やりたい放題。
簡単に物事が進みすぎなんですよ。
つまらないこと限りなし。
あんだけ、飛行機で失敗してるんだから、
ついでに恋愛も失敗しまくれよと思うんですけどねー。

ということで、「風立ちぬ」に恋愛パートは個人的には要りませんでした。
つまり、堀辰雄成分は必要なかったんじゃないかというのが、わたしの結論ですw


堀辰雄の小説はいいですよ。全体的に淡くて。
いかにも、深窓の令嬢が結核にかかっていますという感じがして。
そして、夫は妻がだんだん弱っていくのを感じ取っている。
死の予兆が美しく淡く描かれていて、綺麗な世界観です。
水彩画を鑑賞しているようです。
ああいうのを期待してたんですけどね。
宮崎さんは堀辰雄が好きなんじゃなくて、もしかしたら、
病気の奥さんがいるていうシュチュエーション萌えしてんじゃないかなとか思っちゃんたんですが、
…穿ちすぎですね。すいません。


あと、思ったことは、宮崎さんの関わっている映画は
だんだん筋がなくなりつつあるなーということです。
芥川のように、
最初は切れ味抜群のストーリーテラーだったのが、
だんだんと筋というよりは意識の流れ?的なものにシフトしていくような。
そんなんで、芥川と谷崎は論争してましたが、
わたしは断然谷崎さん派なので、
「風立ちぬ」のふわっとしたストーリー展開の仕方は
ちょっと物足りなかったです。


とは言え、映像も綺麗だったし、
飛行機がかっこよかったし、
あのカップルを取り巻く脇役たちがとても魅力的だったし、
荒井由実の歌声を映画館で聞けるので
十分に映画館を鑑賞する価値はあるかと思います。


「風立ちぬ」と一緒に銀魂も観てきたので、
明日あたり写真付きで感想を書きたいと思います。
お時間ある方はぜひー。

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