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□甘い誘惑
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※EXのおまけ後の話
ティアナ=主人公



どどどど、ばたん。
朝っぱらから凄い音を立てて部屋に飛び込んできたのは、珍しく早起きのルシア。


「なんだルシア、腹でも減って目がさめたのか?」
「あーそうそう腹が減りすぎて……って、ちょ、マティアス!そんな事言ってる場合じゃなくて!
なまえが……」
「何? なまえがどうした?」
「いいから来いって!」


ルシアのただならぬ雰囲気に押され、適当に置いてあったガウンを羽織って部屋を出る。
普段ならこんなに急ぐ事も無いものを、この間のなまえネコ化事件があったせいで、過大とも言える焦りが後押ししていた。

そうこう考えているうちに、すぐになまえの部屋の前に着く。


「これ見てみろよ!」
「……は?」


俺はなまえの部屋のドアに張ってあったメモを読み、思わず疑問の声が漏れる。



“ごめんなさい、今日はどうしても部屋から出られないの。昨日の夕食の残りが冷蔵庫にあるから、悪いけど朝ごはんはそれを食べて。
今日は一日私のことは気にせず過ごしてね。
なまえ”


疑問しか浮かばせることができない文面としばらく睨めっこしてから、口を開く。


「おいなまえ、部屋に居るのか?」
『……い、居るよ』
「お前まさか、またネコに……」
『ち、違うわ』


部屋自体に居ないかもしれない、という可能性とネコ化の可能性はとりあえず消えた。
だがあまりにも不自然な文章に、起きてきたエリクと鍛錬から戻ってきたアルフレートも首をかしげている。


「大丈夫なのか?なにかあったのか……?」
『だ、いじょうぶ。ごめんね、メモの、通りだから』


途切れ途切れのなまえの言葉に不安を覚える。
だが何度同じ質問をしても、ただ返ってくる答えは「大丈夫だから心配しないで」の一点張りだった。




**





結局あの場では俺たちは退いて朝食を摂ったものの、俺はどうしても気になって再びなまえの部屋の前に来ていた。

扉をノックしようとした瞬間、中から話し声が聞こえて気配を隠す。
耳を澄ませば会話が途切れ途切れに聞こえた。


「…今日…は、……おねが、…ほんと……ごめ…なさいね」
『しんぱ……ないで下さ……では、また……で、』


今の声はゲルダとなまえだ。
おそらくあの手鏡を使って会話をしていたんだろう。


「……なまえ」
『…っえ』
「…入るぞ?」
『え、あっ、』


扉に手をかけると焦ったような声が聞こえたが、無用心に鍵がかかっていないドアノブを捻って部屋に入った。


『や、マティアス、お願い、入ってこないで……!』


なまえは頭からすっぽり毛布に包まっていて、拒否を示した。
少し話でもできればと思っていたが、この様子じゃ無理だな。
顔だけ見てとっとと部屋から出るとしよう。
ベッドの側に歩み寄り毛布に手をかける。
くぐもった拒否の声が聞こえるものの、意外と抵抗は弱くあっさりと毛布を剥ぎ取った。


「……なっ…!」
『っ……』


パジャマ姿のまま、クッションをぎゅっと強く抱きしめて丸まっているなまえ。
クッションから少しだけ顔を出して、上目遣いで見上げてくるなまえの目は潤んでいて。
肌はほんのりと桃色に染まっていて、わずかながら小刻みに震えている。
いつもと違う色っぽいなまえに一瞬固まってしまった。

そして無意識のうちに、その桃色に染まった頬にゆるく触れた。


『っ、や……』


びくんと大げさにも体を振るわせるなまえを見て、俺はわずかに口の端を吊り上げた。
この反応は、まさか。


「何をしたんだ?」
『な、にも……』
「答えないならキスするぞ?」
『っ! ……』


意外にもなまえは口をつぐんだ。
何か迷っているようにも見えるが、なまえが力の無い抵抗しかしないのをいいことに、右手でなまえの両手を頭の上に固定する。
それでも反論は無く、勝手に了解だと解釈してぎゅっと目を瞑ったなまえに口付けた。



『んぅ、ふ……ぁっ』


少しからかうような口付けをするだけのつもりだったが、だんだん抑えられなくなり、次第に貪るような深いキスへと変わっていった。
いつものどこか強気な少女の面影は欠片も無く、目の前に居るのは、従順に快楽を求めている本能に必死に抗っている一人の女性。
ようやく唇を離すと、肩で荒い息をしながらも、どこか物ほしげな表情での上目遣い。
本人にその意思が無いとしても、まるで誘っているようなその視線にくらくらした。


「もうこれ以上はまずいだろう?
……何があったんだ?」


何をしたのかは若干の予測がついたが、そうなるまでの経緯を知ってその根源をどうにかしないと……正直このまま襲ってしまいそうだ。
だがそれでもなまえは何かを渋っている。
……仕方が無い。


「媚薬だろう?」
『っ!』
「……やはりか、」


最初に見たときからなんとなくは予想がついていたが……なぜなまえが媚薬を?


『ゲルダが…また、間違えちゃった、って…』
「またゲルダか…!」
『効果を、なくす薬を、持ってきてくれるって、』


思わず顔をゆがめた俺に、なまえは焦ったように言葉を続けた。
大方……またゲルダが何かしらの薬と間違えてなまえに媚薬を与えてしまい、それに気づいたゲルダが俺たちと会わせないように張り紙を張らせ、今薬を調合している……というところか。


『からだ、おかしくなっちゃって…辛くて……
クッション、抱きしめてなさい、って』


なまえは生理的な涙を一筋流した。
きっと俺がこの部屋から出るのが一番穏便に済むんだろうが……
こんなに辛そうで、しかも誘うような視線を向けられて易々と部屋を出られるほど俺の理性は強くなかった。


「……少しでも楽にしてやる」
『え、っや……』


そんなのただの口実にしか過ぎないとは分かっているものの、どうやら抑えられそうにない。
不安そうに見上げるなまえのまぶたに軽くキスをしてから、もう一度唇に触れるだけのキスを落とす。
そして、はだけていた胸元に強く吸い付いた。


『っ、ん……』


抵抗するそぶりを見せながらも、なまえが無意識にもどかしそうに太ももをすり合わせているのが見え、ついに最後の抑えが利かなくなる。
薄い生地の上から、空いている左手で胸のふくらみををゆるゆると揉む。


『や、ぁっ……』


大げさにも見えるなまえの反応に理性も何も無くなり、手を服の下にもぐりこませて直で胸を揉もうと……した時だった。


ばたん!


「入るわよ、なまえ!本当ごめんなさいね、やっと薬が……

……え? き、きゃああああああああ!!」



悲鳴と同時に一階からどたどたと階段を上ってくる複数の足音が聞こえ、はっと我に返る。
なまえに馬乗り状態になっていることの重大さを思い出し、再びドアが開く前にさっとベッドから退いた。
3人にこの状況を見られるのは正直本気でまずい。

だが薄々分かってはいたが、そんな行動は頭の切れる弟達の前では無意味だった。




**




なまえは薬を飲んで間もなく落ち着いた。
怒られるか避けられるかと思っていたが、なまえは顔を真っ赤にして、少しでも楽にしてくれようとしてくれてありがとう、と言ってくれた。
未遂に終わったものの、ゲルダから状況を聞いた3人になまえの部屋にいた俺は言い訳の仕様も無く、当然だといわんばかりに一週間なまえに近寄る事を禁止されてしまった。
だがあの状況において、俺のようなことをしないで冷静にいられる男が居たとしたらぜひ見てみたいものだ。








甘い誘惑
(その一週間の間、なまえの胸元についたキスマークに気づいたものは何人いるのだろうか)
(そしてその優越感に浸っている俺に気がついた者はいるのだろうか)





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反省会

うわぁ……
初作品は案の定カオスに。
見逃してやってくださいorz


2012.02.19


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