舞台裏

□先輩4
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山間部に広大な敷地を誇る民主警察『ミリツィア』
その敷地内には監房、職員宿舎、来賓室、学科用教室、食堂、トレーニングジム、ガレージ等々、ありとあらゆる施設が詰め込まれている。

その事務室に、いつもは縁の無い実働部隊運転組所属の人物が、ヒョッコリと顔を出した。
「ちわー。
 誰か手が空いてる奴がいたら、貸して欲しいんだけど。」

イリヤ=イリザロフ
新規生の教官も兼任しているその人物は、かなり小柄な上童顔であるが、その可愛い外見とは裏腹に、内実は遣り手の化け物である。

事務室にいる者は皆それを心得ているので、そんなイリヤのお願いに名乗りを上げず、黙々と自分の仕事をこなしていた。
「来週金曜の午後一から夕方くらいまで、ちょっと付き合って欲しいんだけどな〜。」
イリヤは可愛らしく食い下がる。

「手の空いている者なんていませんよ。」
冷たく言い放つのは、会計担当のゼニロフである。
手元の電卓を叩く手を止め、書類に数字を書き込むと、冷ややかな目をイリヤに向けた。
グリーンに染めたオールバックの髪、小さめの丸眼鏡の奥から覗く鋭い眼光、白いシャツに黒の腕カバー、いかにも、といった感じの会計官である。

「内勤だって新規生入ったんだろ?
 そいつらで良いからさ、ちょっと貸してよ〜。」
なおも食い下がるイリヤ。

「なんだ、新規生でいいのか?」
ここでやっと書き物をしていた書類から顔を上げた人物がいた。
囚人の労働監督官、ロウドフである。

短く刈り上げた赤茶の髪、厳めしい顔に似合った岩のような筋肉をもつ彼は、トレーニングジムの主でもあった。
しかし、その外見にはそぐわず、面倒見が良いので下の者には慕われている。
その上、料理が上手く、可愛いもの好き、という意外な一面も持っていた。
イリヤとペアを組む狙撃組のミハエルとはよくジムで一緒になるため、『可愛いもの』の中にイリヤが含まれない事をよくわきまえていた。

「うちの新規生の実技実習の採点を手伝って欲しいだけだから、技術や能力は関係ないんだよ。
 体力がありゃ十分!」
イリヤが、ここぞとばかりにまくし立てる。
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