ウサッビチ1

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入隊から1ヶ月が過ぎた。
早い段階で運転組志願に頭を切り替え、それなりに実技を訓練しているものの
『何か、パッとしないんだよな…』
コプチェフは早くも煮詰まっていた。

元々が狙撃一筋でやっていたので、自己流の訓練では限界があるようだ。

『教官に相談するしかないか』
溜め息をつきつつ、昼休みが終わりかけて人の動きが慌ただしくなってきた廊下を歩く。
すると、前方からイリヤが歩いてくるのが目に入った。
好都合、とばかりに小走りに近寄る。

「先輩、ちょっと相談があるんですが。」
イリヤは突然話しかけられ、小首を傾げた。

「居残りで実技をみてもらうことって、出来ますか?」
コプチェフの問い掛けに
「何?
 俺と2人きりになりたいの?」
と、ニヤリと笑って軽口で答えた。
「俺は真面目に相談してるんですよ。」
コプチェフが少し困った顔を見せる。
「なんつーか、その、運転の方を…」
どう頼めば良いか上手く言えず、どうにも歯切れの悪い物言いになってしまう。

そんなコプチェフを見て、イリヤは可笑しそうに笑った。
「ははは。
 分かってるよ。
 ボリスと組みたいんだろ?
 今のお前の腕じゃ、完全に力不足だもんな。」
痛いところをズバリと突かれた。
「俺がみてやっても良いんだが、流石に忙しいしな。
 それに、多分俺の教えにはついてこれないぞ。」
さり気なく、未熟者だと言われる。

どうしようかと途方に暮れるコプチェフに
「そうだ。
 お前、ニコライにみてもらえよ。」
良いことを思い付いた、とばかりに明るくイリヤが提案する。
「あいつは学科も実技も、お前より断然上だからな。
 まあちっと、トロいとこあるけど。
 トロいっつーか、天然?」

「ニコライって、ラベラスキー家の…?」
コプチェフが言いよどむ。
「さすがに知ってたか。
 そう、軍の上層部に何人も血族を送り込んでいる、実質上軍の支配者ラベラスキー家のお坊ちゃまだ。
 何だ、エリート相手だと気後れするか?」
イリヤがねめつけるように下から見上げてくる。

「気後れっつーか…」
コプチェフはニコライとは何度も話したことがある。
家柄をひけらかさない気さくな奴であるが、妙にオドオドしてるというか
『正直、頼りないんだよな…』

「大丈夫だって!!
 何なら、俺から頼まれたって言や、あいつ絶対断らないぜ。
 授業の後、大抵ガレージにいるから行ってみな。」
まだ思案顔のコプチェフの背中を、手にしていたファイルで軽く叩き
「おっと、時間だ。」
と、腕時計を確認したイリヤは慌ただしく去っていった。

憮然とした表情のまま、コプチェフも次の授業がある教室に向かって歩き出した。
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