ウサッビチ1

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「最近、自習多いよな。」
午前の訓練を終え、並んで歩くニコライにコプチェフが話しかけた。
「そのおかげで、お前に教えてもらえる時間が増えて、俺としちゃありがたいけど。」

コプチェフがニコライに教えてもらうようになってから僅か半月足らずで、運転技術は各段に向上していた。
「コプチェフは飲み込みが早いし、運動神経良いからね。
 教えがいがあるよ。」
ニコライは笑いながら言うが、少し顔を曇らせ
「僕も、君みたいに体が動けばな…
 頭では分かってても、何か逡巡しちゃって、どうにも上手くいかないんだ。」
フゥ、と溜め息をつく。
その感覚は、コプチェフにも痛いほどよくわかる。
自分が狙撃の腕で、ボリスに対して抱く感情と同じものであるからだ。
「お前だって、前より随分早く走れるようになったじゃんか。」
バシッと励ますようにニコライの肩を叩いた。
実際、コプチェフに刺激され、ニコライの走りは早くなっている。
そんな2人にイリヤは
『引き合わせたかいがあったな』
とホクホク顔であった。

「そういえば、自習が多いのって爆発騒ぎのあった後からでしょ。」
ニコライが声をひそめて話しかける。
「ああ、そういやそうだな。
 何だっけ?
 山ん中で開発中の小型ロケットが誤爆したとか?」
コプチェフが答えた。
「あれね、マフィアの内部分裂が原因らしい。」
ニコライは更に声をひそめて続けた。
「マジ?」
コプチェフも併せて声をひそめる。
「キレネンコとキルネンコって双子の頭首がいる大きいファミリーがあるでしょ。
 どうも部下に嵌められて、2人ともあの爆発で大怪我を負ったらしいんだよ。
 で、次の頭首の座を巡って内部は大揺れしてるから、今はあのファミリーを潰す絶好のチャンスなんだよね。
 だからここのところ、先輩たちは皆駆り出されて動いてるんだ。
 今日は頭首の屋敷らしき建物に、一斉検挙をかけるらしい。
 それで上の人は全員居なくて、今日は1日自習なんだよ。」
軍の情報と運転組の先輩の情報、どちらも共有するニコライはかなりの事情通なのだ。
自分の情報を変に吹聴して回らないコプチェフには、時々こっそりと裏事情を教えてくれる。

「そうだったのか」
その情報にゴクリと唾を飲み、神妙な顔になるコプチェフ。
しかしすぐに
「じゃあ皆、夜まで帰って来ないな。
 ボリスとゆっくりランチを楽しむとするか。
 悪いが、午後の訓練は少し遅い時間から始めてくれ。」
ニッと笑う。
ニコライも笑って
「良いよ。
 僕も車いじりたいし。
 戻ったらガレージに来てくれればいいから。」
優等生であった彼も、コプチェフと付き合うようになってから、少しずつ息抜きの仕方を覚えていた。
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