ウサッビチ1

□4
1ページ/2ページ

ミリツィアの建物から車で5分ほど行ったところに、小さなカフェとそれに併設する雑貨店がある。
山の中に建っていて買い物をするには不便なミリツィア隊員たちの御用達、とも言える店だ。
歩いて行くと往復30分ちかくかかるので、自分の車を持っていない新規生はあまりランチにカフェを利用しない。
しかし、ボリスはこのカフェのメニューを気に入っていてよく通っているのだ。
実習車を使えるとあってか、いつもは居ない新規生の姿が多い。
コプチェフは駐車場に車を停めると、ボリスの姿を探す。

外にあるテラス席で、のんびりと雑誌を読みながらランチを食べているボリスを発見すると、短時間で用意してもらえるメニューを頼み、トレイを持って向かいの席に座る。
多少混み合ってはいるものの他に空いている席はあるのに、まるで連れ立って来たような顔をして自然に座ったコプチェフに気が付き、ボリスが雑誌から顔を上げた。
「あれ?お前も来たんだ。」
というボリスに
「偶然だな〜。」
シレッと答えるコプチェフ。
その後に
「愛のパワーのなせる技だ!!」
と続けるが、ボリスは華麗にスルーした。
そのまま雑誌に視線を戻し、パンを口に運ぶ。
いつものやり取りであるので、コプチェフもそれ以上何も言わず、食事を始める。
スプーンでスープをすくいながら、チラチラとボリスに視線を落とす。
『ほんと、こいつ可愛いよな…』
ボリスはいつも相手を睨みつけているようなキツイ眼差しをしているが、それは彼の地顔であって、別に機嫌が悪い訳ではないのだ。
親しくなった相手に向ける笑顔とのギャップが、よく相手を驚かせる。
今のように何かに夢中になっていると、少年の様にあどけない表情を見せることがあり、それがまた堪らない、とコプチェフは常々思っていた。

一向に食事が進まないコプチェフに気が付き
「どうした?」
とボリスが声をかけた。
「いや、まだ熱くて。」
ハハハ、と笑いながら適当な事を言い、慌てて先にパンを口にする。
「ああ、ここのスープ熱々だもんな。
 それにスパイスをドバッと振りかけて食べると、また美味いんだ。」
聞くだけで口の中が火傷しそうな事を言うボリスは、かなりの辛党であった。

やっと自分に注意を向けてくれたボリスに、コプチェフは気になっていた事を聞いてみることにした。
「お前ってさー、もう誰と組むか決めた?」
「いや、まだ先の話だし、全然考えてねーな。」
スプーンを口に運びながら、あまり興味無さそうにボリスは答えた。
「じゃあ、俺と組もうぜ!!」
コプチェフが勢い込んで言う。
「え?
 お前、狙撃組に行かないの?」
ボリスが驚いた顔をみせる。
「お前となら、連携狙撃とか、面白い隊列出来るんじゃないかと思ってたのに。」
『お前となら』
そんなことを言われると、コプチェフの決心が揺らぐ。
しかし、お互い別の者の車に乗る事を考えると、それは有り得ない選択肢だと自分を納得させた。
「お前と組みたくて俺、今、運転の方頑張ってるんだぜ。
 ニコライに特訓、とかしてもらってよー。
 山道でも、随分早く走れるようになったしさ。」
胸を張るコプチェフ。
「それで最近、よくニコライとつるんでたのか。
 あいつ、運転実技良いもんな。
 そういや、あんま射撃場に顔出さなくなってたな、お前。」
今から先の事ちゃんと考えてるんだな、とボリスはコプチェフの事を少し見直して素直に感心した。
「だからさ、俺と組もうぜ!!
 な?」
更に食い下がるコプチェフ。
感心はするが、それとこれとは話が別問題である。
「あ〜、んじゃ、お前がイリヤ先輩より速く走れるようになったらな。」
ボリスは適当に答えた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ