ウサッビチ1

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翌朝、朝食の後、実技実習のため表に向かって廊下を歩くボリスの後ろから、陽気な声がかけられた。
「ボーリスッ。
 おっはよー。」
振り返ると、そこにはレオニードがいた。
射撃の大会で何度か見かけていたため、最初からボリスはレオニードの顔だけは知っていた。
首位者が入賞したことのない自分を知っていてくれた事に、レオニードは感激し照れた笑顔を見せた。
そして
『ボリスは銃の事にしか興味が無いのが良いよな』
という理由で気に入って、ボリスとも親しく話す仲である。
「ああ、おはよー。」
朝からキラキラ輝くレオニードに、ボリスも気さくに返事を返す。

レオニードは小走りに走り寄ってきて、ボリスの隣に並んで歩き出すと
「お前さー、今日の実技誰と組むの?」
と聞いてきた。
「ニコライだよ。」
ボリスが答える。
「オレ、コプチェフなんだけど、代わってくんねーかな?」
そんなレオニードの申し出に、ボリスは顔を曇らせた。

「何、お前ら喧嘩でもしたの?」
「いやいや、そんなんじゃないって。
 実は朝飯食い過ぎちゃって、具合悪くてさー。
 コプチェフの運転って荒いじゃん。
 何か酔いそうで。」
とても具合が悪いとは思えないハキハキとした口調で、レオニードは話した。
「確かに、ニコライの運転の方が丁寧だけど…
 コプチェフだって、ちゃんとそう言えばゆっくり走らせてくれるよ。」
つい、コプチェフを庇うようなことをボリスは言っていた。
「オレの気紛れだとでも言っといて良いからさ。
 ダメ?」
自分より少しだけ背が高いのに、上目遣いになるように首を傾げて潤む瞳を向けてくるレオニードに、ボリスは根負けする。
「わかった、代わるよ。」
苦笑気味に言うボリスの頬に、チュッと音高くキスをすると
「ありがとな〜!!
 ボ〜リアちゃ〜ん!!」
レオニードはニヒヒっと笑う。

「あ、そだ。
 コプチェフに、オレ、チョコレート大好きって伝えておいて。」
「?
 好きな食いもんの話でもしてたのか?」
「ああ、ま、そんなとこ。」
レオニードはまた、ニヒヒっと笑った。
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