舞台裏

□同期1
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先行きの不安を取り止めもなく考えていると、ベンチの側の人の背丈ほどの植え込みの中から、ガサガサといきなり人が出てきたので、ビックリして手にしていたカップを落としそうになってしまった。

「おっと!!」
出てきた人物も驚きの声を上げた。
こんな所に人がいるとは思わなかったのだろう。

出てきた人物に、ニコライは見覚えがあった。
『レオニード=チカロフ』
ゆるくウェーブした肩下まであるハニーブロンド、アイスブルーの瞳、彫刻のように整った顔、ほっそりとバランス良く引き締まった肢体。
同期の中で、その派手な外見のため一番目立つ存在である。
しかし、一度も言葉を交わした事は無かった。

レオニードが自分を見て戸惑っているようなので、ニコライの方から声をかけてみた。
「あ、えっと、同期のニコライです。」
レオニードはホッとした顔になる。
先輩だと思われていたようだ。
「何だ、同期か。
 わりーな、まだ同期の顔、全部覚えてないんだ。」
照れたように、ニヒヒっと笑う。
整った外見であるものの、陽気で人懐っこいレオニードには取り巻きが多いため、それにあぶれた者は、あまり覚えていないようだ。

髪に付いた木の葉を払い落としながら
「いや、あそこの植え込みの隙間、抜けられるかなー、とか思ったら、ちっと試してみたくなっちゃってさ。
 ギリいけたぜ!!
 狭い場所での潜入捜査も出来る、ってもんだ!」
何となく得意そうに話しかけてくる。
「お前は?
 こんなとこで、何してんの?」
不思議そうに小首を傾げられ、ニコライは少し逡巡した後
「少し悩んじゃってて…
 これからここで、やっていけるのかな、って。」
正直な気持ちを打ち明けてしまった。

「成績悪いのか?
 って、オレも人のこと言えないけど。」
レオニードに笑いながらそう聞かれ
「成績はそうでもないんだけど、何か、ちょっとね…
 停滞してる、って感じかな。」
ニコライは力無く答える。

「留まってるのが嫌ならさ、ちょっとずつでも進みゃいいじゃん。」
レオニードは明るく言った。
「動き出さないと始まらないだろ?
 動いてみても上手くいかないかもしれないけど、それでも動いた分だけ進んでるんだ。
 何もしないより、ずっと良いと思うぜ!」
レオニードに笑いかけられて、ニコライは何だか明るい気持ちになってきた。
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