舞台裏

□先輩2
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新規生入隊から半月ほど経った頃である。

午前の授業を終えた後、食堂でのランチから戻ってきたミハエルとイリヤは、ガレージに向かって歩いていた。
「半日ずつの出動ってのも、慌ただしいな。」
イリヤがボヤいた。
「半年もすれば、ヒヨッコ共の面倒をみるのも少しは楽になるさ。」
ミハエルが余裕の表情で答える。

「お前んとこは、今期はボリスっつーエースが入るから良いよな。
 運転組は不作っぽい。」
ふう、とイリヤは溜め息を吐いた。
「今は半月しか経ってないから、まだまだわからんさ。
 それに軍家のお坊ちゃんは学科も運転技術も良いじゃないか。」
ミハエルが言うと
「あいつはスピードも覇気も足りないんだよ。
 パンチのある奴がいねーんだよな。」
イリヤは頬をふくらませる。
「それに…」
ジットリとした視線をミハエルに向け
「あのお坊ちゃん、いっつもお前のことチラチラ見てるだろ。」
個人的感情丸出しの評価である。
「妬いてんのか?」
苦笑しながらミハエルが言う。
「まあな。」
ムスッとした顔のまま、イリヤは肯定した。

「あっ。」
ガレージの方から、件の軍家のお坊ちゃん、ニコライ=ラベラスキーが歩いてくる。
向こうも2人に気が付き、ペコリと頭を下げた。
それから、意を決したように2人に近づいて来て話しかけた。

「あの、147チームのミハエル=アルシャーヴィン選手ですよね。
 僕、大ファンだったんです!!」
ニコライは顔を真っ赤にして、まくし立てた。
「何だ、レーサー時代を知られてたのか。
 すぐ引退しちまったから、若い奴は知らないと思ってたよ。」
ミハエルは笑いながら言った。
『若い奴』とは言っても、ミハエルとニコライは2歳しか違わない。

「よくサーキット場に見に行ってたんです!!
 凄く豪快な走りなのに、それでいて繊細で、何と言えば良いのか…
 いつも見ていてスカッとして!!」
瞳をキラキラさせながら話すニコライを見て、ミハエルは気が付いた。
「あ…、思い出した。
 よく貴賓席で見てた奴だな。
 そういや、政府や軍の高官にチケット流れてたみたいだからな。
 いつも雑誌抱えて見てたから、よっぽど好きなんだなと思ってたよ。」
「あの雑誌が、1番貴方の記事が多く載ってたから!!」

2人のやりとりを、イリヤは面白くなさそうに見ている。
『ミーシャのファンか…
 あいつ、ファンサービス良かったし、マスコミにも愛想良かったからな』
自分はファンと交流したことも無いし、マスコミからの取材は完全にシャットアウトしていた。
当時はただ早く走りたいだけで、自分の事をあれこれ詮索してくる全てが煩わしかったのだ。
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