舞台裏
□先輩2
3ページ/5ページ
憮然とした顔のイリヤをミハエルがチラリと見て
「サーキット場に来てたなら、258チーム知ってるか?」
と話題を変えた。
「コーナリングの神がいたところですね!!
僕、実は元々彼のファンで、あのサーキット場に通い始めたんです。
あの人、マスコミ嫌いで有名だったから実際に見に行くしか無くて。
奇跡のコーナリング!!
あれは本当に神の技としか思えない、見事なものでした。」
ニコライは即座に答えた。
『えっ…!?』
イリヤは驚いた。
『俺を見るために、通い始めたって…?』
ミハエルの事を語るとき以上に紅潮した頬で自分の事を語るニコライを見て、さすがにイリヤは照れくさくなる。
ニコライは話に夢中で、イリヤがソワソワし始めた事には全く気付いていなかった。
「イリザロフ選手、突然引退してしまったのが、本当に残念です。
体調を崩したとか、チームと揉めたとか、色々な噂があったけど、真相はわからなくて…
なにしろ、マスコミに出ない人だから。
元気でいてくれると良いんですが…」
ションボリとうなだれるニコライを見て、イリヤは複雑な気持ちになる。
自分の事を詮索してくるファンやマスコミは、彼にとって煩わしいものでしかなかった。
こんな風に今でも心配してくれる存在がいるなんて、想像したことも無かったのだ。
自分の事を打ち明けた方が良いのだろうかと逡巡するイリヤが、ミハエルに視線を送る。
「ぶはははははっ!!」
こらえきれず、ついにミハエルが大笑いした。
オロオロするニコライを尻目に
「わりー、わりー
やっぱ一般のファンは、あのメットとつなぎの中身見たこと無いんだな。
マスコミに写真もほとんど流出させなかったし。
いやな、その神様、こいつ。」
訝しげな顔をするニコライに
「コーナリングの神・イリヤ=イリザロフだよ。」
イリヤをしっかりと抱き寄せ、ウインクしながら、自慢するように告げた。
「イリザロフって…
えーー!?」
やっと意味が飲み込めたニコライは目を白黒させる。
「そうか、イリヤ先輩のコーナリング、何だか見たことある気がしてたんです!!
でも、あまり見る機会が無かったし、思い出せなくて。
僕は何てニブイんだ。」
頭を抱えるニコライを見て
『コーナリングだけでわかるもんなんだ…』
イリヤは内心、舌を巻いていた。