舞台裏

□先輩3
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閉じられていても美しさを感じさせる目を飾る長い睫。
高い鼻梁。
形よく閉じられた唇。
ビスクドールを思わせる、陶磁器の様になめらかな頬。
頭から左目の下、左頬、左耳下にかけて、肌を縫い合わせた大きな傷跡がある。
しかしその傷跡さえも、完成されたパーツの一部であるかのように、醜さは感じられない。
美しすぎる頭部を彩る長めの髪は、角度によってはピンク色にも見える、サラサラとした不思議なプラチナブロンドだ。

包帯の下から出てきたその人物は、手配書の写真でしかお目にかかった事が無いマフィアのボス、キレネンコ(orキルネンコ)に間違いなかった。

「何だよ、こいつ…」
イリヤが、かすれた声で呻く。
「もう50近いハズだぜ。」
その外見は、成人したばかりの男性にしか見えない。
大人びた少年、と言ってもおかしくないものであった。

そういうイリヤ自身もかなりの童顔であるが、ここまでの規格外ではない。
2人が入隊する随分前から使われていた手配書なので
『居場所わかってるなら、写真くらい更新しろよ』
と苦々しく思っていたが、何故更新しないのか、その理由は明らかである。

「大怪我を負った、って情報だったが。
 死んでるのか…?」
ミハエルが口元に手をやるが呼気は感じられず、胸に手を当てても鼓動は無かった。

「俺たちゃ医者じゃない。
 その判断を下すのは、うちの監察医の仕事だ。」
まだ衝撃が抜けきらず、半ばボンヤリとしながらイリヤが言った。
「そうだな。」
そう言うとミハエルは注意を払いながら、そっとそのミイラ状の人物を抱き上げた。

さすがにイリヤは、焼き餅を焼く気にはなれなかった。
むしろ態勢が変わり、流れ落ちた髪の下から顕わになったキレネンコ(orキルネンコ)の、左耳に刺さっている大きめの安全ピンを見て
『単なる事務用品なのに、何か芸術品みたいだ』
などと思うのであった。

結局イリヤの目算通り、その屋敷からは書類や品物といった犯罪の証拠たり得る物は何一つ発見出来なかった。
唯一にして最大の成果は、2人の発見したマフィアのボスの片割れの遺骸(?)だけである。

護送車も来ていたのだが、イリヤは強引に自分達の車の後部座席にそれを乗せる許可を取った。
シートベルトで固定し、そのまま車を走らせる。
山道の凸凹で車がバウンドすると、そこだけむき出しになった美しい頭部も、同じ様に揺れた。
やはりそれは、死んでいるとしか思えない、物体の動きであった。
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