舞台裏

□先輩5
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話題の人物の突然の登場に、2人は飛び上がらんばかりに驚いた。
声を落としていたため、会話の内容はイリヤに聞かれてないようだ。
「せ、先輩、珍しいですね!!」
コプチェフが何気ない風を装って話しかけるが、完全に声が裏返っていた。
「いやー、今日はこのままパトロールに出ちまおうと思ってさ。
 書類片付けて、今来たとこだよ。」
イリヤが2人のテーブルの隣の席に陣取って答えた。

そこへ、2人分の食事をのせたトレイを持って、ミハエルが現れる。
「ボルシチのセットで良かったか?」
そう言いながら身長2m近い大男が、甲斐甲斐しくイリヤの分の食事を整えていく。
その姿は、まさに先程コプチェフが言っていた『従順な熊』のようで、ボリスは笑いを堪えるのに必死になった。

ボリスとコプチェフが居ることに気が付いたミハエルが
「お前ら、よくここ利用するんだってな。
 毎日昼に実習車使ってるって、ヤンが言ってたぞ。」
狙撃組所属であるが、ミハエルは運転組の内情にも詳しかった。
「ヤン先輩には、良くしてもらってますよ。」
ヘヘヘッと笑いながら、コプチェフは頭をかいた。
「ま、アイツは面倒見良いからな。
 有望そうな運転組希望者には甘いんだ。」
ミハエルは笑いながら、イリヤのトレイに手を伸ばす。

『何をするのだろう?』
とボリスとコプチェフがさりげなくミハエルの手元を伺うと、イリヤのトレイに置いてあるカフェオレの、ソーサーの上にのっていた角砂糖の包みを掴んだ。
自分のカフェオレの中に入れるのかと思いきや、包みを開けるとそのまま角砂糖を口の中に放り込む。

『サーカスの熊のご褒美って、角砂糖!!』
先程の会話との一致に、ボリスとコプチェフは吹き出すのを必死に我慢した。
真っ赤になりながら不自然に揺れる2人に気が付いたイリヤが
「ああ、これな。
 俺はブラックコーヒーの方が良いんだが、ブラックばっかじゃ胃に悪いってミーシャが言うから、昼はカフェオレ飲んでるんだよ。」
まったく見当違いの弁解をするので、2人は益々可笑しくなる。
角砂糖をコリコリと噛みながら、2人をキョトンとした顔で見ているミハエルが、可笑しさに追い討ちをかけた。

笑いを堪えすぎて酸欠になっている2人に
「お前ら、そろそろ戻った方が良いんじゃないか?」
腕時計をチラリと見てイリヤが声をかける。
2人はギクシャクと立ち上がり裏返った声で
「失礼します。」
やっとそれだけを言うと、トレイを返却するため走ってカフェに消えて行った。
店の中に着くと、ボリスとコプチェフは耐えきれず大爆笑する。
店内にいた者がギョッとした視線を向けてくるのもかまわず、目尻に涙を浮かべながら2人は暫く笑い続けるのであった。
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