ウサッビチ4

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ポンッ!!

双眼鏡越しに見ているはずなのに、そんなコミカルな音が聞こえた気がするほど呆気なく、04号囚人の眉間に刺さっていた弾丸が弾け飛んだ。
「!?あいつの頭蓋骨、どうなってんだ?」
自分達の見ている光景のあまりの非常識ぶりに、コプチェフとボリスの思考は停止してしまった。
その一瞬の空白をつくかのように、04号囚人が怒りにまかせて辺りのガラクタを2人に向かって投げつけてくる。
コプチェフが我に返るのと、その体に04号囚人が投げたドラム缶が直撃するのはほとんど同時であった。
為す術もなく、コプチェフはその一撃によって後方に吹っ飛ばされる。
「コプチェフ!!」
悲鳴を上げるボリスにも、04号囚人が投擲してくる飛来物が襲いかかってきた。

「くそっ!」
ボリスはその飛来物を正確な腕と早さをもって、ライフルで撃ち落としていく。
いくつもの飛来物の中から、自分に直撃しそうな物を優先的に撃ち落とす。
それは、もの凄い集中力を要する行為であった。
これが射撃大会の競技種目であったなら、間違いなく首位入賞の腕を見せていた。
『投げるガラクタが尽きた時、お前の幸運も尽きる!』
コプチェフを襲われた怒りでいつも以上の能力を発揮しているボリスの目に、あり得ない飛来物が映る。
「いっ!?」
それは、04号囚人が乗っていたモスクビッチであった。
あろうことか、運転席には541号囚人が乗ったままになっている。
動揺しまくっている541号囚人の顔を見れば、それは計画に基づいた行為では無い、行き当たりばったりの行動であることが伺えた。

『車投げてくるって、ムチャクチャだ!』
それはボリスのライフルでは、撃墜しようの無いものであった。
『投げられる』という車体に無理な負荷をかけられたモスクビッチは、そのまま爆発四散する。
ボリスはその爆風にあおられ、今まで潜んでいた山中から車道に叩きつけられた。
モスクビッチに乗っていた541号囚人も、ボリスの側に吹き飛ばされてきた。
薄れゆく意識の中で、541号囚人がモスクビッチの残骸をかき集め、動ける状態にまで修理している光景がボンヤリと見える。
『くそっ、このままじゃ、また逃げられる』
そう思うものの、ボリスの意識は闇に落ちていった。

頬に当たる冷たい感触で、ボリスの意識が覚醒する。
目を開けたボリスが最初に見た物は、自分をのぞき込む心配そうなコプチェフの顔であった。
「大丈夫か?」
そう言いながら、頬を優しく濡れタオルで冷やしてくれる。
「すまない、奴ら逃がしちゃった。」
ゆっくりと起き上がり、頭を振りながらボリスが謝ると
「お前が無事で良かったよ。」
コプチェフはそっと唇を重ねた。
「お前こそ大丈夫か?
 ドラム缶、直撃してたろ?」
意識のハッキリしてきたボリスが慌てて問いかける。
「なんとか大丈夫だ、俺ってけっこー頑丈だからよ。」
コプチェフはヘヘヘッと笑って答えるものの、顔面や肩口、ところどころに青あざが出来ていた。

「追うぜ、まだ追いつける距離にいるはずだ。
 モスクビッチの部品があちこちに散ってるところをみると、車体に何かトラブルあったみたいだな。
 こっちの車は無事だから、スピード出せばすぐ追いつくさ。
 今度はこっちが反撃する番だぜ!
 大会上位入賞者ペアの実力見せてやろう!」
力強く笑うコプチェフに
「2人で連携射撃だな!
 狙撃組希望者特別講習の実演、思い出すね。」
ボリスも力強く頷いて答え、2人はラーダカスタムに乗り込んだ。
そして、モスクビッチが去った方角目指し走り始めるのであった。
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