ウサッビチ4

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逃走中のモスクビッチを追い、コプチェフとボリスを乗せたラーダカスタムはスピードを上げる。
ボリスはいつものように助手席には座っていなかった。
バズーカを担ぎ、ラーダカスタムのトランクの上に乗って前方を鋭く見据えている。
『何度も練習してんだ、タイミングはバッチリ計れる
 さすがに04号囚人も、これ撃ち込まれたら終わりだな!』
ラーダカスタムから振り落とされないようしっかりと両足に力を込め、ボリスは向かい風を受けながら目標を探していた。

コプチェフはボリスを落とさないよう慎重なハンドル捌きをみせながら、モスクビッチの後を追っている。
『この技を試す日がくるなんてね
 目標発見後、照準がブレるのを少しでも抑えるようにしねーと
 この山道、揺らさないよう走るのは腕の見せ所ってやつだな』
高揚する心を感じ、コプチェフの顔には自然といつものニヤニヤ笑いが浮かんでいた。

「見えた!」
目標のモスクビッチに気が付いたのは、2人ほとんど同時だった。
コプチェフはサイレンのスイッチを入れる。
2人を励ますように、辺りに正義のサイレンが鳴り響いた。
ボリスはバズーカをしっかりと肩に固定させ、今まで以上に両足に力を込めて踏ん張った。
揺れる車の上から、モスクビッチの後部席に居る04号囚人に照準を合わせた。
コプチェフはバックミラーに映るボリスの体制で、状況を推し量る。
照準を合わせているボリスの意識をそがないよう、前方のモスクビッチとの車間距離を一定に保ち、車体を大きく揺らさないよう慎重にハンドルを捌いていた。
何度も練習をしていたので、声を出さなくても2人の息はピッタリだった。

「くっ…」
だんだん、担いでいるバズーカの重みが肩にのしかかるように感じられてくる。
それでもボリスは慎重に照準を合わせ
『今だ!』
最高のタイミングでバズーカを発射させた。

バシュッッッツ

思ったよりも軽い発射音を響かせ、バズーカから放たれたミサイルが前方のモスクビッチを襲う。
肩と腰に衝撃を感じたが、ボリスはラーダカスタムから振り落とされることなく踏ん張った。
ミサイルを発射した衝撃で、ラーダカスタムが軽く跳ねる。
しかし、コプチェフにとってそれは予想済みのことであり、スピードにはいっさい影響されなかった。
2人が見守る中、ミサイルはモスクビッチに迫っていく。
狙いは正確で、後部席の04号囚人に見事に命中した。
そして、そのままスニーカーを熱心に磨いている04号囚人を乗せ、ミサイルがモスクビッチから飛び出した。

「いいっ!?」
コプチェフとボリスの目が驚愕に見開かれる。
「何で爆発しないんだ?」
混乱の極みにあるボリスに
「くそっ、さすが軍の払い下げ品!
 どっか、不具合起こしてんだよ!ニコライに言っとかねーと…」
コプチェフが苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「それにしたって…
 何だって04号囚人は平気な顔でミサイルの上に乗って飛んでるんだよ?」
泣きそうなボリスの言葉に
「訳わかんねーよ、あいつ、人間か?」
覚めない悪夢を見ている気分で、コプチェフが呟いた。

美しい顔をスニーカーに近づけ、この上ない芸術品を見るような恍惚の表情を浮かべる04号囚人。
かすかに汚れている部位をきれいな布で磨き、汚れ落ちを確認する。
スニーカー全体を何度も布で拭い、完璧な状態に仕上げていく。
飛行するミサイルの上で繰り広げられているそれは、スニーカーのみならず04号囚人も含め完璧な芸術品のように見える光景であった。
ピンクブロンドの04号囚人の長い髪がなびき、そこに光の軌跡が見えるような神々しさすら感じられる。
そんな04号囚人を乗せたミサイルの前方に、トンネルが現れた。
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