ウサッビチ4

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「しめた、トンネルの天井に当たれば04号囚人も振り落とされるだろ!」
ホッとした顔を見せる2人の前で、さらにあり得ない光景が繰り広げられた。
トンネルの天井部分に接触した04号囚人の額が、そのまま天井の1部を削りながら進んでいくのだ。
何者をもってしても04号囚人の行く手を阻むことなど出来ない、と言わんばかりの光景であった。
04号囚人は先ほどと同じように、飛行するミサイルの上でスニーカーを磨き、額でトンネルの天井部分を砕いて進んでいく。
あまりのシュールな光景に、コプチェフとボリスは意識が遠のきかけた。

そのままトンネルを抜け飛行するミサイルに、異変が起こった。
明らかに推進速度が落ちてきているのだ。
ミサイルの上では、相変わらず04号囚人がスニーカーを磨いている。
一端布の動きを止めて、様々な角度からその出来映えを確認していた。
満足そうな表情を見せながら、その美しい顔を紅潮させる。
自分が今おかれている異常な状況など、歯牙にもかけていなかった。

更に、ミサイルの速度が落ちる。
もはや地面と平行に飛ぶことは不可能になり、ガクガクとその体を震わせ始めた。
後ろからそれを見ていたコプチェフとボリスの背中に、冷たい汗が流れる。
「おい、あのミサイル…」
あまりの嫌な予感に、ボリスは最後まで言葉を言うことが出来ない。
「さすが、軍の払い下げ…
 なんつー粗悪品だ!責任者誰だよ、おい!」
コプチェフが悲鳴のような声を上げる。
程なく、2人の目の前でミサイルは完全に推進力を失った。
それでも今までの慣性で前に進んでいる。
急激にスピードを落としたミサイルは、それを追いかけていたラーダカスタムに急接近し、そのボンネットに接触した。
『そのまま弾き飛ばせないか』
そんな願いもむなしく、不具合を起こしていたはずのミサイルが景気よく爆発する。

04号囚人はその爆風にあおられ、前方を走っているモスクビッチの中に吹き飛ばされた。
しかし、そんな自分の状況など全く気にすることなく、未だスニーカーを磨き続けている。
モスクビッチの車内に吹き飛んだ04号囚人は541号囚人を乗せ、車内から飛び出してもの凄いスピードで飛んでいく。
先ほどとは比べものにならないシュールな光景を、コプチェフとボリスは見ることが出来なかった。
爆発に巻き込まれたラーダカスタムは大きくスピンし、崖に落ちる寸前で車体を止めている。
あちらこちらにかなりのダメージを負っていたが、コプチェフとボリスの心にはそれ以上のダメージがかかっていた。

「俺たち、何と戦ってるんだ…?」
震える足でトランクの上からボリスは車道に下りる。
今の爆発で振り落とされなかったのは、奇跡のようであった。
コプチェフが慌ててラーダカスタムのドアを開け、ボリスの元に駆け寄った。
「良かった!無事だったんだな!」
爆発に気を取られ思い切りハンドルを切ってしまったコプチェフが、安堵の表情を浮かべながらボリスを抱きしめた。
「もう、危なくてあのミサイルは使えない。
 いったんミリツィアに戻って、体勢を立て直そう。」
優しくそう言うコプチェフの腕がかすかに震えていることにボリスは気が付いた。
『こいつも怖いんだ…』
コプチェフは大胆なようでいて繊細な面を持っているのを、ボリスもよく知っている。
「大丈夫、奴らの車体かなりガタがきてるし、途中でパンクでもするんじゃないか?
 いったんミリツィアに戻ったって追いつけるさ。」
震える腕で自分を抱きしめながら、それでも前向きなことを言ってくれるコプチェフの存在は、ボリスにとってとても頼もしかった。
「だな!今度は装甲車で出よう!
 やっと、あの銃器使えることが出来そうだ。」
ボリスは笑顔になって、自分からそっとコプチェフの唇に唇を重ねる。
コプチェフはボリスの髪を優しく撫でながら
「非常召集かかってるだろうし、おっちゃん達全員出勤してると思うんだ。
 俺達の車はおっちゃん達に任せて、ソコシャコフで出動しよう。
 そうと決まれば、ミリツィアまで飛ばすぜ!」
勇ましい言葉を口にした。

2人が乗り込んだラーダカスタムは、今までの戦闘の名残でガタガタと激しく揺れながらも、ミリツィア目指してスピードを上げるのであった。
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