ウサッビチ4

□4
2ページ/4ページ

逃走するモスクビッチを追い、タンクコフは戦車とは思えないスピードで走っていく。
モスクビッチめがけてボリスが何発も砲弾を撃っていった。
砲弾はモスクビッチのタイヤに命中するが、走行中の車体から身を乗り出した541号囚人が神業ともいえるスピードでタイヤを交換し、そのまま逃走する。
「いっ!?」
それを見たコプチェフとボリスの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
「くそっ、541号囚人も要注意人物だぜ。」
コプチェフが苦虫を噛み潰した顔で呟いた。
「みてろ、修理する時間なんて与えない!」
ムキになったボリスは、続けざまに砲弾を撃ち込んだ。
砲弾が着弾するたびに541号囚人がタイヤを交換していく。
しかしあまりの衝撃に、ついにモスクビッチの車体が耐えられなくなり、爆発四散した。
「やった!」
コプチェフとボリスは勝利を確信する。

だが、その時あり得ない光景が2人の目の前で繰り広げられた。
スローモーションのようにゆっくりとした時間に感じられるモスクビッチ四散の瞬間、頭に包帯を巻いた04号囚人の体が力なく投げ出される。
それを見た541号囚人の中で、燃える想いが弾けたのだ。
541号囚人は四散しかかった車体をかき集め、今までとは比べものにならないスピードで修理、改造していく。
積んでいたパーツを天才的な技術とセンスをもって車体に組み込んだ。
四散するかと思われたモスクビッチは、よりパワーアップした状態で山道に着地する。
「え?」
それは、夢を見ているとしか思えない光景であった。

呆然とする2人の目の前で、モスクビッチのエンジン(実際には組み込まれた戦闘機エンジン)が火を噴いた。
エンジンの圧力を受け、モスクビッチの車体は弾丸のように加速する。
その車体は、見る見るうちに遠ざかって行った。
スピードが出せるよう改造してあるとはいえ、戦車であるタンクコフに追いつけるスピードではない。
2人の思考も、そのスピードに置いていかれる形となった。
「今の…何だ…?」
目を瞬かせたコプチェフが呟くと
「あれ…?だって今、バラバラになって…?」
ボリスも呆然と呟いた。
この逃走劇が始まってから何度目になるであろう、あまりにも非現実的な光景に2人の思考は停止した。

しかし、すぐに
「って、しまった、また逃げられた!」
「追わなくちゃ!」
警官としての使命に燃える2人の思考が動き出す。
「追いつけるかどうかわからねーけど、こうなりゃカケだ。
 カンシュコフ達に用意させた、擬似店舗設置場所に行ってみるか。」
思案顔のコプチェフが言うと
「先回りして、奴らが商品に気を取られてる隙をつければ良いけど…
 とにかく、準備してみよう!」
ボリスが決意も新たに頷いた。
正義の警官2人を乗せたタンクコフは山道を『ワープ』するため、バリバリと木々をなぎ倒しながら山の傾斜を下っていくのであった。

擬似店舗設置場所では、カンシュコフ達が忙しなく立ち働いている。
「これ置いときゃ、食い意地のはった541号囚人なら絶対食いつくぜ!」
「下剤をたっぷり入れといてやるからな。」
「で、トイレに駆け込んだ瞬間、ドカンだ!」
「04号囚人には、何と言ってもこれだろ、スニーカー!」
「手にした瞬間、ドカンだ!
 …って、04号囚人にこんなチャチな爆弾効くのか?」
今まで04号囚人に散々痛い目を見せられてきた(原因は自分達にもあるのだが)カンシュコフ達の顔が曇る。
「ま、まあ、こっちには別働隊の2人がいるから大丈夫じゃないか?」
「あいつら、同期の中じゃ1番の出世株だもんな。」
「検挙率もダントツだし、先輩達だって一目置いてるくらいだしよ。」
「でも、そんな奴らと04号囚人がやりあう現場には居たくないよな…」
「もし、04号囚人があの状態になったら…」
1人の呟きを受け、バーサーカーモードの04号囚人を目の当たりにした事があるカンシュコフ達の顔が、みるみるうちに青ざめていく。

バリバリバリ、ドスン!!

木々をなぎ倒す音、重い物が着地する音に、カンシュコフ達は飛び上がって驚いた。
慌てて音のした方に首を巡らせると、そこにはタンクコフの姿が見える。
頼もしい戦車の姿を見たカンシュコフ達の顔色が、歓喜に輝いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ