ウサッビチ4

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逃走するモスクビッチの中で、541号囚人が追跡してくるあまりのパトカーの量に頭の中を真っ白にしていた頃、当のパトカーを運転している者達の頭の中も真っ白になっていた。
『ここで04号囚人を確保しないと、俺達に明日はない!』
ラーダカスタムは獲物を追いつめる猛獣のように、大きく車列を広げながらモスクビッチを取り囲み追いつめていく。
その統制のとれた動きは、1つの生き物のようにも見えた。
それは、日頃の訓練のたまものであり、何よりイリヤを恐れる隊員達の心が一つになっていたからなせる技でもあった。
逃走するモスクビッチに向け、ラーダカスタムから一斉に銃弾が放たれる。
モスクビッチはもとより、その前方、万能アームにぶら下げられた04号囚人に、激しい銃弾の雨が襲う。
この物量作戦に隊員達は己の勝利を確信した。

銃弾の雨にさらされ、541号囚人の顔に激しい焦りが浮かんだ。
まだ04号囚人を車内に回収する前だったからだ。
マシンガンの弾くらいでどうにかなるとは思わなかったが、この状況が彼の怒りに触れる危険性は十分にあった。
04号囚人を守るため、と言うより、車体を守ることを考え541号囚人は改造スイッチを押す。
すると疾走中のモスクビッチから装甲が現れた。
前面にぶら下げている04号囚人と車体を守るように、装甲が張り巡らされていく。
車体に当たる銃弾の雨が、次々と装甲に弾かれていった。

マシンガンを連射していた狙撃組隊員達の顔に驚愕の表情が浮かぶ。
コプチェフとボリスは、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
「くそっ、ありゃソコシャコフのパーツじゃねーか!」
コプチェフが腹立たしげにハンドルを叩く。
「まさか、あんな短時間でこんな改造を加えるなんて…
 この弾じゃ、あの装甲はやぶれないよ。」
ボリスがマシンガンを連射しながら忌々しげに呟いた。

ソコシャコフを運転しているニコライも、何が起こったか気が付いていた。
「あのソコシャコフの残骸は、このためだったのか。
 きっと、改造したのは541号囚人だろうな。
 ああ、やっぱり、ラーダの改造手伝ってもらいたかった!」
不謹慎な叫びをもらすニコライに
「どうする?こっちの砲弾で、あの装甲、いけるかな」
緊張した声のレオニードが問いかける。
我に返ったニコライが
「改造したとき、あっちの機体は装甲強度上げたから、厳しいかも。
 でも、マシンガンの弾より効くはずだよ!
 装甲に集中放火して、僕たちで突破口作ろう!」
そう言ってレオニードに逞しい笑顔を向けた。
「ニコ、格好い!今夜はうんとサービスするからな!」
レオニードは二ヒヒッと笑うと、チュッと音高くニコライの頬にキスをする。
「いくぜ!」
気合いを入れたレオニードが、モスクビッチの装甲に集中的に砲弾を撃ち始めた。

ソコシャコフが行う集中砲火の意図に気が付いたサーシャが
「マシンガン隊、スピード上げて、もっと前に出て!
 装甲はソコシャコフに任せて、前面の04号囚人を狙うんだ!」
そう、指示を出す。
今までもかなりのスピードを出していたが、04号囚人に少しでも近付くためラーダカスタムは更に速度を上げる。
装甲に邪魔されて正確な狙いはつけにくいものの、狙撃組の面々は04号囚人に向かい次々と銃弾の雨を降らせ始めた。

04号囚人は万能アームに捕まれてブラブラと揺れながらも、雑誌を読むのをやめていない。
銃弾の雨に晒されているというのに、いつものように熱心に紙面に見入っている。
頭にはアフロのカツラ、顔には目が描かれているサングラスをかけたままなので、その光景は異様なものであった。
ユーリはそんな04号囚人を忌々しげに睨んでいる。
「あいつ、バカにしやがって!」
先ほど04号囚人の足を掴んで車外に引きずり出した際、自分の存在は歯牙にもかけられていなかった。
そんな04号囚人の態度は、ユーリの警官としてのプライドをいたく傷つけていた。
「イヴァン、もうちょい前に出て!
 あんなもん、読めなくしてやるよ!」
キツい印象を与えるツリ目ぎみの目に闘志を燃やし、ユーリはマシンガンの引き金を絞る。
狙いは正確で、04号囚人が読んでいる雑誌に次々と穴が空いていった。
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