ウサッビチ4

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04号囚人は、自分のおかれている状況を特に意識してはいなかった。
とにかく、街に出て新モデルのスニーカーを手に入れる事だけを考えていた。
どの角度から眺めるのが良いだろうか、雑誌の写真を見ながらウットリとそんな事を考えていると、ふいに目前の写真が消え失せた。
先ほどから自分の周りをウルサく飛び交っているマシンガンの弾に撃たれて紙面が散ってしまったのだと気が付いたとき、04号囚人の体は行動を起こしていた。
両足を地に着け、万能アームで繋がっているモスクビッチに強制的にブレーキをかける。
そのまま04号囚人は走ってラーダカスタムに向かっていった。

モスクビッチの中では、何が起こっているのか判断がつかない541号囚人が慌てていた。
警官から集中砲火を受けている状況で、とにかくそれを振り切って逃げることを考えていた矢先に起こった出来事であった。
モスクビッチの前面に万能アームでぶら下げていた04号囚人が、ふいに足を地に着け車体を止めたのだ。
そのまま、もの凄いパワーで車体を引きずりながらパトカーの列に突っ込んでいく。
モスクビッチの中にいる541号囚人に、それを止める術はない。
04号囚人に引きずられて激しく揺れる車体の中で、ゴロゴロと転がっていた。
自分どころか、周りがどうなっているのかもよくわからぬまま、車内で頭を打ち付けた541号囚人の意識は遠のいていく。
最後に04号囚人の雄叫びを聞いたような気もするが、確認出来ようはずもなく、意識は闇に落ちていった。

「ざまみろ!」
自分の放った銃弾により04号囚人の読む雑誌が散っていくのを、ユーリの目は捉えていた。
その瞬間、眼前にあり得ない光景が繰り広げられる。
04号囚人が両足を地に着けモスクビッチに強制ブレーキをかけたため、万能アームで繋がっていた車体が無茶な制止により大きく跳ねた。
04号囚人はモスクビッチを引きずりながら、ラーダカスタムの群に突っ込んでいく。
その唐突で俊敏な動きに、流石のミリツィア隊員達も即座に反応出来る者は居なかった。

いきなり向きを変え自分達に突っ込んでくる04号囚人に、隊員達は軽いパニックを起こしていた。
04号囚人の体が軽く触れただけで、ラーダカスタムが横倒しになっていく。
乗っている者は為す術もなく、車体と共に揺さぶられる。
04号囚人は手近にあるラーダカスタムのボンネットを掴んでは、地に叩き伏せていった。
次々とひしゃげたラーダカスタムが山を築いていく光景は、悪夢に相違なかった。
あまつさえ、04号囚人のふるう拳の風圧で小さな竜巻が起こり、巻き込まれたラーダカスタムが空中を飛んで墜落していく。
長身ではあるが細身の部類に入る04号囚人が見せつける圧倒的なパワーは、隊員達の脳裏にある一人の人物を連想させた。
まるで、今後の自分達の運命を先に見せつけられているような光景に、隊員達の恐怖が頂点に達してしまう。

「む、無理だ、かないっこない!」
「助けて!」
「ごめんなさい!」
ひしゃげたラーダカスタムから這いだした隊員達が、悲鳴を上げながら次々と逃げ出していく。
それを諫めたり止めようと出来る者は、混乱しきっているこの場に存在していなかった。
ソコシャコフですら04号囚人の猛進を止められず、横倒しになっている。
その中ではニコライとレオニードが意識を失っていた。
これだけの猛攻をみせたにもかかわらず、04号囚人の頭には相変わらず変装用のアフロのカツラが乗っており、顔には目の模様が描かれているサングラスをかけている。
一見コミカルに見える姿であるからこそ、その姿はより大きな恐怖を呼び起こさせた。

コプチェフとボリスの乗るラーダカスタムも風圧に巻き込まれ、宙を舞った1台であった。
2人が車から這いだすと辺りは惨憺たるありさまで、負傷した同僚達が倒れ伏し、ひしゃげたラーダカスタムが山を築いていた。
その光景は、コプチェフにある1つの過去を思い起こさせた。
ミハエルが撃たれた際、怒りに身を任せたイリヤがズルゾロフの部下のラバーマスク達をなぎ払った現場と酷似していたのだ。
崩れそうになる心と体を叱咤し、2人は04号囚人を前に果敢に立ち上がっていた。
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