ウサッビチ4

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街にあるズルゾロフマーケットの2階にある酒場では、ゴロツキに扮したミリツィア隊員達が多数たむろしていた。
集団であることを悟られないため、少人数のグループに分かれながらも油断なく辺りを警戒している。
「勤務中に飲めるなんて、ありがたいこった」
ヒヒッと笑う隊員に
「まったくだ」
他の者が相槌を打つ。
彼らはヤンより1、2期上の者が多く、ツインネンコファミリー隆盛時代の事は先輩達からの話にしか聞いたことがなかった。
「04号囚人てのは、本当に化けモンみたいだな。
 新規やら25期のやられっぷり見たか?
 あいつらだって、若いとは言え、うちの精鋭だぜ?」
そう囁く1人に
「あの別働隊、コプチェフとボリスですらかなわなかったんだ。
 先輩達からも、散々04号囚人の話は聞かされてたけど…
 上の世代、ツインネンコファミリーのせいでボロボロだったもんな。」
別の者がそう言葉を続ける。
「そうそう、ほら、今は内勤に異動した先輩とかよ。
 今でも悪夢見る、とか言ってたし。」
ヒソヒソとそんな話をしている隊員達の耳に、エレベーターの扉が開く音が聞こえた。

彼らがさりげなくエレベーターに視線を向けると、そこにはこの世の者とは思えない美貌の青年と、前髪を頭の上で結い上げたおっとりした感じの青年が立っている。
思わず息を飲む隊員達であったが
「おい、あいつらがそうじゃないか?
 やっぱり、おいでなすったか。」
一人の囁きで、フロア全体に緊張した空気が流れた。
自分に向けられる警戒の視線をものともせず、美貌の青年、04号囚人は酒場の奥に進んでいく。
小競り合いを装ってこのフロアから連れ出そうと近寄っていく隊員達は、次々と04号囚人に吹き飛ばされた。
派手なアクションを起こしているわけではない。
ハエを払うような何気ない動きであるにも関わらず、屈強な男達が投げ飛ばされているのだ。
時分の身に何が起きたかわからないまま宙を舞う同僚を見て、さすがに隊員達の心に恐怖がわき起こる。

「上の階の奴に連絡取らないと!」
「って、この格好じゃ、レストランフロアに入れないぜ。」
「ダンスフロアにいる先輩達に応援頼め!」
総崩れとなった隊員達が、逃げまどうようにエレベーターに乗り込んでいく。
04号囚人はそちらには見向きもせず、カウンター内にいるバーテンに雑誌に載っている新作スニーカーの写真を見せ、その所在を尋ねていた。
その隙に、無事だった者が投げ飛ばされた隊員を担いで避難する。
逃げ出した隊員達は1階で強引に店内の電話を借り、ミリツィアに応援要請をかけていた。


2階の騒動を知らないレオニードとニコライは、4階のレストランフロアで優雅にランチを楽しんでいる。
「04号囚人、ここに来るかな。」
緊張した声で言うニコライに
「どうかな。
 ヤン先輩は『ズルゾロフに復習を企てる』って思ってるみたい
だけど、あいつズルゾロフのことなんて覚えてないぜ。
 ただ、ここの1階ってスニーカー売場だろ?
 むしろ、そこを襲撃する確率の方が高いんじゃないかと思うね、オレは。」
レオニードがそう答える。
「おっと、そう思いましてよ、わたくし。」
うっかり地声で話してしまったことに気が付いたレオニードが、慌てて裏声で言い直した。
「こちらのケーキ、とても良いお味ですこと。
 これは、全部試してみなくては。」
ホホホホホ、と上品に笑うレオニードの意図を察し、ニコライが店内を歩いているウェイターを呼びつけた。
「お嬢様にこちらをお持ちして。」
ニコライの指がデザートメニューの上から下までなぞるのを、ラバーマスクの下から困惑した表情でウェイターが見つめている。
ニッコリと美しく微笑んで、レオニードがウェイターを見つめ、注文を促した。
去っていくウェイターを見ながら
「あれだけ頼めば、暫くこのフロアでねばれる
ぜ。
 先輩達、あの格好じゃここに入れないからなー。」
また地声に戻ってしまったレオニードが二ヒヒッと笑って囁いた。

ケーキの山にレオニードが気を取られている頃、エレベーターの扉が開き新たな客が入ってくる。
それは上品なレストランフロアにも違和感なく溶け込む美貌の持ち主、04号囚人であった。
3階のスロットで大量の資金を手に入れ、一休みしようと訪れたようであった。
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