ウサッビチ4

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コプチェフとボリスが食堂に向かうと、ちょうど帰還してきたニコライとレオニードと行きあった。
「お疲れさん、お前等ズルゾロフマーケットでは活躍してたらしいな。
 俺達は出遅れちまったが、ズルゾロフを確保出来たよ。」
コプチェフが話しかけると
「助かったぜ、ズルゾロフだけでも確保できて。」
レオニードが二ヒヒッと笑う。
「イリヤ先輩に、それなりの成果をみせられるもんね。
 04号囚人に逃げられっぱなしだったら、確保するまで僕達ミリツィアに帰って来られなかったかも。」
ニコライが苦笑しながら言った。
「イリヤ先輩が帰ってくるまでゆっくりしよう。
 帰ってきたら合同ミーティングだって。
 ズルゾロフを確保したとは言え、こってり絞られそう。」
ボリスも苦笑して、そう口にする。
「そうだな、甘いもん食って今日の自分を労うか。
 ニコ、俺達もこのまま食堂行こう。」
ズルゾロフマーケットのレストランでスイーツを食べまくってきたレオニードの言葉に、ニコライは優しく頷いた。

4人が食堂に行くと、すでに帰還してきた隊員達で込み合っている状況であった。
「ズルゾロフ確保してくれたんだって?ありがとよ!」
「お前等、昨日も今日も大活躍だな。」
コプチェフとボリスに次々と声がかけられる。
「いやー、でも、これからが山場だよ。
 ミーティングまで、少しでも羽伸ばそうぜ。」
コプチェフが朗らかに答えを返す。
「ボリス先輩!お疲れさまです。」
小柄な人影が近付いてきてボリスに抱きつくと、コプチェフが慌ててそれを引き矧がした。
「ユーリ、お前最近どさくさに紛れて…イヴァンに怒られるぞ?」
コプチェフにギロリと睨まれても
「イヴァンはそんな事くらいで、俺の愛を疑うような器の小さい奴じゃありませんよ。」
ユーリは意に介した様子を見せなかった。

「検問所で、ユーリが04号囚人を車内から引きずり出したんだってね。
 26期の人たちが自慢してたよ。」
ボリスに話しかけられて、ユーリの顔が輝いた。
「はい!でも逃げられちゃって残念です。
 あいつ、何なんでしょうね。
 何発も弾が当たってるの見たのに、全くダメージ与えられなくて。」
ユーリが顔をしかめると
「マシンガンじゃ無理だよ。
 ランチャー弾でも無理だったから…」
ボリスは前日の激戦を思い出して遠い目をした。
「ユーリ、お待たせ。」
2人分の食器をのせたトレイを持って、イヴァンが一団に近付いてくる。
「イヴァン、お前が買いに行ってたのか?
 ユーリを甘やかしすぎだ。」
コプチェフに呆れた顔をされ
「いや、でも、ユーリ、液体の入った食器運ぶの苦手だから俺が運んだ方が早いんですよ。」
イヴァンはオロオロと弁解を始めた。
「あ、今日のスープそれか、俺の好きなのだ。」
ボリスがイヴァンの持っているトレイをのぞき込むと
「やったー、アプリコットタルトがある!買い占めなきゃ!
 ユーリ、俺達の分も席取っといて!」
レオニードも同じようにのぞき込み、笑顔を見せる。

その後、トレイを手にしたコプチェフ、ボリス、ニコライ、レオニードがユーリの確保したテーブルに集い、夕飯を食べ始めた。
6人は昨日の騒動が起こる前のように、笑いながら食事をする。
これから始まるであろう地獄のミーティングを前に、食堂内の隊員達は『今だけはゆっくりしよう』と明るい声で朗らかに話し合う。
それは、戦士達のつかの間の休息のようであった。
その休息時間は、すぐに終わりを告げる。


予定通り日付が変わる前にイリヤとミハエルが帰還した。
緊急合同ミーティングの為に実働部隊の面々がガレージに集合したのは、日付が変わってからの事となった。
ズルゾロフファミリーを潰せたとは言え、脱獄した04号囚人を確保出来なかった隊員達の顔には一様に焦りが浮かんでいる。
隊員達の前に立つイリヤの顔には優しい笑みが浮かんでいたが、機嫌が良い時に浮かべている笑みでは無いことに、全員が気が付いていた。
イリヤの第一声を待つガレージ内の空気は、刃物のように研ぎ澄まされた緊張感に満たされていた。
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