ウサッビチ1

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それを聞いたコプチェフが固まる。
『イリヤ先輩って!!
 あの人、神と称される程のレーサーだったんだろ?
 ハードル高っ!!
 何だこれ?
 遠まわしに断られてんの?
 他に組みたい奴いんのか?』
この世の終わりの様な顔をして、ガックリとうなだれた。
『いや、待て
 考えるな、感じろ
 どう考えても同期でイリヤ先輩より速く走れる奴なんかいねーよ
 ニコライだって、ぜってー無理だし
 むしろこれは、俺なら出来ると期待されてる?
 この火を飛び越えてこい、的なあれ?
 賞品はオ・レ、って言いたいのか?』
ニヤニヤしながら、コプチェフは俯けていた顔を上げる。

一方ボリスは、自分の何気なく言った一言で暗く俯いてしまったコプチェフを、訝しげな顔で見ていた。
てっきりいつもの調子でヘラヘラしながら
『おう、まかしとけ!!』
と軽口を叩くと思っていたのだ。
しかし見ていると、コプチェフは徐々に顔を上げた。
何だかニヤついている。
コプチェフの百面相についていけず、呆気にとられるボリス。

コプチェフはガバッと身を乗り出し、ボリスの手を握り締めると、その顔に自分の顔をグッと近寄せて
「俺、頑張るよ!!」
と、鼻息も荒く宣言した。
いつもなら、速攻手を払いのけて身を引くボリスだが、コプチェフのあまりの剣幕に
「あ?ああ…。」
曖昧に頷いた。
よしよし、とか言って頷きながらテキパキと食事を再開したコプチェフを
『何かわからねーけど、やる気があるのは良いことだよな…』
ボンヤリと見守るしかないボリスであった。

「そうだ、俺、今日実習車で来たんだ。
 帰り乗せてってやるから、買い物あったらしてこいよ。
 抱えて帰るより楽だろ?」
そんなコプチェフの言葉にボリスの顔が輝いた。
「マジ?
 ちょうど欲しい物あったんだ!!
 じゃ、俺ちょっと店見に行ってくる。」
残りの食事をかき込むと、ボリスはトレイを持って慌ただしく店の方に去って行った。
欲しい物があるのも本当だが、いつも以上に壊れ気味なコプチェフの対応に困っていたのも事実で、渡りに舟の申し出だったのだ。

そんなことには気付かず、自分に向けられたらボリスの笑顔にボーっとするコプチェフ。
『レオニードが、車回すとボリスが喜ぶ、って言ってたのこれか〜』
ニヤニヤとそんなことを考える。

なんとも幸せなスレ違いであった。

ボリスと荷物を乗せて帰路についたのは、午後の自習の時間をかなり過ぎた頃であった。
ガレージに車を停めると
「助かったよ、ありがと。
 たまにはこんな時間まで羽延ばすのも良いよな。」
荷物を抱えて、ボリスは去って行った。

コプチェフはガレージにいたニコライをみつけると
「これから、もっとビシビシ扱いてくれ!!」
鬼気迫る形相で頼みこんだ。
「え?
 ええ?」
友のそんな申し出に、目を白黒させるしかないニコライであった。

その夜、双子のマフィアの片割れを確保して、ミハエルとイリヤは凱旋する。
それは2人の出世に大きな1歩をもたらすものであった。

そして、新規生のつかの間の休息は終わった。
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