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□2014年クリスマス企画
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俺が今付き合っているひとはとても神出鬼没で、謎だ。いつもはベルベットルームという不思議な空間にいて、有里先輩のエスコートをしているというが全くわからない。
出会ったきっかけは、偶然だった。
有里先輩に外の世界を案内してほしいと、彼女本人からの依頼で共に歩いていた二人と俺が遭遇した。本当に、それだけの偶然だった。
「ワンワンッ!」
「そんなに引っ張るなよコロマル…」
クリスマスの夜。今頃寮ではみんなが美味しい食事を囲んで楽しくやっているというのに、俺はなぜかコロマルの散歩に付き合っていた。俺も少しだけではあるが料理を楽しみにしていたというのに。恨むぞコロマル。覚えてろ。そう思いながらも付き合っているのだから、俺も大概甘いようだ。
寒くて、凍えそうなほど冷たい夜の空気は肌に何かが突き刺さっているんじゃないかと勘違いしてしまうほど。
グイグイと先をいくコロマルに翻弄されながら、いつもの散歩コースを巡る。
こんな寒いなか、あいつはあんな格好で出歩くわけがないから偶然で会うなんて高望みはしない。しないが、少しは会いたいという気持ちがある。クリスマス、というものがどんなものかあまりよく理解できていなくても、話を聞けばクリスマスの日、カップルは共に夜を過ごすと聞いた。なら、少しくらい望んでも。
「おや、久方ぶりでございます」
…よかったみたいだ。
「…エリザベス」
名前を呼ぶと、にこりと笑った彼女はこつこつとヒールをならしてこちらに近づいてくる。珍しくコロマルは足元で尻尾を振りながらおすわりしていて、大人しかった。
「ここで会ったのも何かの縁。よろしければゆっくりお話でもいかがでしょうか」
「構わないけど…今の時間じゃどの店も閉まってるしな。近くのベンチでいいか?」
「ええ、問題ございません」
「というかエリザベス、お前なんて格好してんの」
「と、いいますと?」
首をかしげる彼女の格好はとても見ていられるようなものではなかった。有里先輩の話では、彼女は普通の人間ではないので感覚は人間とは少し違うらしいのだが真冬のこの時期にあんな肩出しの服を、しかも薄着では見ているこっちが心配で仕方がない。寒さを感じていないのか、気づいていないのか。無言で首に巻いていたマフラーを外し、エリザベスの首に苦しくない程度に巻き付けた。あと上着も脱いで羽織らせる。
「純也さま、これは?」
「お前は感じてないかもしれないけど、今は真冬だし肌寒いだろ。着てろ」
「いえ、私はそのような感覚はございません。ただ肌が少々痛いだけで」
「それを、寒いっていうんだよ! 着ててくれ、風邪を引かれたら困る」
「…かしこまりました」
ふっと笑ったエリザベスを誘導し、ベンチに座る。コロマルにあまり遠くに行かないようにと釘を指して、リードを外してやれば元気よく駆け出していった。
「…その格好、あなた様が寒いのでは?」
「平気だ。これくらい」
「そうですか。もし、病に倒れたら私が看病して差し上げます」
「…いや、別にいいけど変な気を起こすなよ?」
「ご心配なく。これでも私、力を司る者。そこら辺にいる方々にやられるほど弱くはございません」
「頼むから妙な騒動な起こすな。目立つから」
「承知しました」
エリザベスは、不思議だ。自由気ままで、だけど客観的に世界を見つめる彼女はどうして俺を好きになったのだろう。前に問いかけたが、明確な理由を教えてくれることはなかった。俺は彼女のそばにいると気楽で、安心できるから…何より一緒にいたいと思えたから。これを、好き。というのだろう。だから俺は彼女からの想いを受け入れたのだけど。
「もうすぐですね」
「……?」
「もうすぐ、恋仲、という間柄になってから3ヶ月です」
「…あぁ、もうそんなにたつのか」
「ええ。こんな私のためにここまで尽くしてくれるあなた様は…とても優しいのでしょう。だからここまで続いた」
「………。」
「人とは、興味深い存在です。欲望に埋もれ、時に人を殺し、人を生かす。…特にあなたは私の興味を酷くそそりました」
「その言い方やめろ…」
「私はもっとあなたのことを知りたい。それは、悪いことでしょうか」
「エリザベス…?」
エリザベスとの距離が縮まる。突然のことで思わず後ずさろうとするが、いつの間にか手を握られていたようで阻止され、女とは思えない力で引き寄せられた。
これ、普通は立場が逆なのでは。意外と冷静な頭がそう思っていると、どすんと音を立てて白い何かがエリザベスの足元に乗っかった。
「こ、コロマル…?」
「おや…コロマルさま。申し訳ありませんが、少々待っていただけますか?今から私は純也さまとあつーい」
「言わんでいい!」
「…ですので、よろしいでしょうか」
「ワンッ」
遊んでくれと言わんばかりに頭を押し付けるコロマルは引こうともせず、しびれを切らしたエリザベスはコロマルを引き剥がそうと俺の手を離しコロマルの体を持ち上げた。そのまま地面に下ろすのかと思いきや、コロマルは遊べとエリザベスの顔をなめはじめた。
「っ!」
「うわー…」
しかもちょっと、というレベルではなくかなり舐めまくっている。今日はタオルなんて持ってきていないし、コロマルはエリザベスの弱点を知ってか知らずか鼻先ばかりを舐めている。
困った表情で、目線だけを向けてくるエリザベスからコロマルを離すため、エリザベスに羽織らせてあるコートのポケットからいつも遊んでいるボールを取り出す。
「コロマル」
ヒラヒラと視界に入る場所でボールをちらつかせればコロマルの興味はエリザベスからボールへと移る。
「エリザベス、コロマルを離せ」
言われた通りにエリザベスはコロマルを離した。くるくると期待を込めた目をしながら足元を回るコロマル。ボールを振りかぶり、思いっきり…とまではいかないがそれなりに遠くまで投げるとあっという間にコロマルはボールを追いかけて走っていった。
コロマルがボールに夢中になっている間に、顔をしかめるエリザベスに声をかけた。
「大丈夫か?」
「コロマルさま…腹立たしい」
「メギドラオンはやめてください俺らの戦力なんで」
「鼻先を執拗に舐められました」
「だろうな」
そういえば、ふとこの前シャガールに行ったときに持ち帰ったおしぼりがあったはず。ポケットを探れば見つかって、袋を破いてそれでヨダレだらけになった顔を拭いてやる。
「こんなもんか」
「…まだ感触が残ってます」
「え、まだ? そんなに舐めまくったのか…」
「なんだかとても不快でございます。よろしければ、純也さま」
「なん、……」
「口づけ、をしてくださいませ」
「はっ?」
「クリスマスのプレゼント。ということで」
誰から教わったんだ、と聞く前にエリザベスに口を塞がれる。一度言い出したら聞かない彼女は、コロマルに顔を舐められたのが嫌だったみたいだ。その感触を消してほしいから口づけをしてほしいとは、嬉しいようで微妙な気持ちだ。しかし断る意味もないので、希望に答えることにした。
「ん」
角度を変えて、何度も繰り返す。
息も苦しいのか絶え絶えに漏らし始めた彼女の声がいとおしい。首に腕を回され、段々と深くなっていき、満足して離れた頃にはお互い息が乱れていた。
「はっ…」
「ん…私、とても愉悦でございます」
「言うなよ…恥ずかしい」
「照れたお顔もまた興奮いたします。……おや?」
エリザベスが空を見上げる。つられて同じようにすれば、いつの間にか出ていたはずの月が雲に隠れ、変わりに雪が降ってきた。
「雪…ですね」
「…ホワイトクリスマスか」
「雪は儚く溶けていくもの。しかし、こうして見るといいものですね」
そっと手を出せば雪が落ちて、溶けて水になる。すぐに消えていく雪はまるで、儚く散っていく命のようにも思えて目を伏せる。
「…綺麗だな」
「…………。」
エリザベスは静かに離れ、ベンチに座って空を見上げていた。いったい何を考えて見ているのか、俺には分からない。それでも、その横顔はとても綺麗で、じっと見つめていた。
――――と、そこへ。
「ワンワンッ!」
「! コロマル…っ!?」
「は、しまっ…!」
ボールで遊ぶのに飽きたコロマルがダッシュで帰ってきて、まっすぐ、迷うことなくエリザベスに突進した。
そして再び顔をなめ始める。
「……純也さま」
「ダメ。やめてください」
「………。」
すべての雰囲気を一瞬でぶち壊してくれたコロマルをさっきより大きな恨みを込めて見つめた。
end
ハルさまリクエストのエリザベスお相手夢でした…。クリスマス企画だというのにこの遅さ!もう春です!すいませんでした!!お待たせしてごめんなさい本当に!
おきに召していただければ幸いです…リクエストありがとうございました!