短編

□大きくなる、この気持ち
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放課後、渋谷のセントラル街で彼女とファミレスに行くことになって駅で降りたら見慣れた顔が駅構内にあった。


「祐介。」

「ん? ああ、美咲か。奇遇だな」

「美人!」

「…彼女は?」

「クラスメイト」


背中からひょっこりと顔を覗かせ祐介の顔を見た途端そんなことを言い放った彼女に、珍しく祐介の表情が固まった。紹介をすれば律儀に祐介も自己紹介を始め、二人は顔見知りとなる。


「美術部の特待生…」

「知っているだろう? 斑目のことを。俺はその人の元門下生だったんだ」

「へぇー。大変そうだね。あ、チョコパイあるけど食べる?」

「いいのか?」

「蒼井くんもあげる」

「美咲はもらえないが…」

「チガウ」

「ごめん日本語間違えた」


日本語って難しい。渡されたチョコパイをありがたく受け取ると金欠でじゃがりこばかり食べている祐介はキラキラと目を輝かせた。餌付け…餌付けされてるこいつ…。


「私絵心とか全くないから美術とか理解できない」

「ならば指南してやろうか」

「難しそうだから遠慮する」

「なに、自分が感じた物をそのまま描いてみるだけだ」

「祐介、スランプとか言ってなかったか」

「ふむ…いいアングルだ」

「聞け。」


祐介はいつものように両手の人差し指と親指をくっつけ見たいものだけを枠の中に入れて彼女を見ていた。いいな、と満足したように手を降ろした祐介に何をしていたのか理解できてない彼女は首を傾げる。


「何してたの?」

「何、珍しいものが見られると思ってな」

「珍しい? …私が?」

「珍しいじゃないか。美咲といつも一緒にいるのは竜二や杏ばかりだったからな。新鮮だ」

「坂本くんと高巻さん? また目立つ二人だね」

「ふふ。賑やかだぞ」

「ふーん…賑やかなのはちょっとな」

「苦手か?」

「人にもよる」


祐介が鞄から取り出したじゃがりこを一本取り出し、なんの躊躇いもなく差し出す。彼女はそれを疑問も持たずに受け取り口にくわえると、さっきの祐介と同じようにポーズをとって俺と祐介を交互に眺めた。


「んー…うん。美人美人」

「それは男に使う言葉じゃないだろ」

「じゃイケメン」

「うーん…」

「あ、二人一緒の方が映えるじゃん! いいねこれ。喜多川くんからいいこと教えてもらっちゃった」

「是非活用してくれ」

「こんなところに猫発見!」

「ぎにゃー!?」

「あ!」

「おや」


うっかりしていた。というか顔を出していたこいつが悪い。手を不意に下へと動かした枠の中に偶然鞄から頭を出したモルガナが入ってしまったようで見えないほどの速さでモルガナの頭を両手でホールドした彼女はわしゃわしゃと撫で始めた。


「わ、ワガハイの自慢の毛並みがぁあああ!」

「もっふぁー!」

「ぎにゃー!!」

「蒼井くん毎日猫連れてきてるけど肩凝らない?」

「……………え?」

「何とぼけてんの誤魔化されるほど私バカじゃないよ」

「これは訳ありで…」

「棲みかがこいつの鞄らしい」

「(無理にもほどがある言い訳ー!)」

「…そういうことにしておこう」

「納得するのかよ!!」

「えええ…」

「交換条件だ! 私の実験台になってくれるなら見逃したげる!」

「え…なんの実験台? 変な薬飲ませるとか? やだよそれ」

「映画の見すぎだろそれ」

「………。」


言い返したいけど簡単に口を割ったら本当に殺されそうだから押し黙ることしかできなかった。ただでさえ武見先生の薬の実験で気絶させられているのにこれ以上増えたら体が持たない。怪盗どころか学校生活すら怪しいんじゃねえのレベルだ。


「心配しなくてもただ試作のお菓子の試食をしていただくだけだぞ」

「菓子、だと…!」

「祐介が釣られたぞ。どーするんだ?」

「……受ける」

「よっしゃ!」

「ちなみに聞いておくけどさ」

「うん?」

「料理できるの?」

「あの人と同じこと聞くのね…」

「あの人?」

「んーん。安心して、人並みにはできるから」

「そうか。ならいいよ」

「…なんかトラウマでもあんの?」

「い、いや」


裕介が受ける気満々だし、俺が断ったら絶対に二人でやることになる。…想像したらなんか気分が良くなくて引き受けることにした。モルガナのことを学校に言わない代わりの、交換条件。


「作ってきたら連絡いれるから、都合がいいか悪いかだけ返事くれ。そしたら渋谷で集合ね」

「分かった」

「俺もいいのか?」

「是非お願いしたい。ほら、人によって好みがあるじゃない。参考にしたいの」

「ありがたい」

「んじゃ連絡先教えて!」

「なんかやたらと喜んでるなこの女…」

「よし」

「お前もかよ!」


女子の手料理。しかも彼女の。下心が見え隠れしているけれどこれが男というものだ。諦めてる。


「さて。」

「これからどこかへ?」

「ファミレスに行く予定だったの」

「そうか。悪いが俺は帰らなければ」

「食う金が無いだけか」

「無論」

「…奢ってやるから祐介も来い」

「本当か!? ありがたい…!」

「びんぼーか…」


三人と一匹。仲良く揃って(?)ファミレスに向かった。

ただの日常も悪くない。むしろ、スゴく居心地がいいような。

それはきっと、彼女がいるから…なのかもしれない。

この気持ちが変わるまで、あと**日。





多分祐介と彼女はやたらと仲良くなる。これを機に彼女は蒼井くんに会うたび祐介ポージングをするようになるのです。

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