短編その2
□Encounter
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割りと本気で困り果てて、歩きさ迷っていたら曲がり角で子どもと正面衝突するというハプニングに遭遇した。身長はこちらの方が高かったから特にダメージはなかったけどぶつかった相手は衝撃に耐えきれず地面に尻餅をつくのだがその光景がやたらとスローモーションで見えた。
「あだっ!」
「…悪い。前見てなかった」
「い、いえ…俺の方こそスミマセン!」
手を差し伸べて立たせてやる。
制服を着ているのと身長などを見てまだ中学生くらいだろうか。声もまだ変わってないみたいで高い。
そのまま立ち去るかと思えばなぜかここに留まり見られていた。…あんまり見られるの好きじゃないんだけど。
「………、」
「俺の顔に、なにか?」
「あっ、いや! その…ケガしてるのかなあって」
「ケガ?」
「その眼帯…」
「…ああ、これか」
あまりにも普通として馴染んでいるものだから、存在自体を一瞬忘れた。
特にケガをしているわけでもなく視力の低下を抑えるための物だから気にするほどのことでもない。…普通なら眼帯してないから気になるのか。中学生って好奇心旺盛な年齢だもんな。
「眼球がない」
「え!?」
「わけではない」
「……………、」
「視力のバランスが悪くてさ。低下を抑えるためにわざと塞いでるだけだよ。ほら」
「あ…」
顔を真っ青にして驚き、ちゃんと目があることを証明して見せれば安心したようで深い深いため息をついた。…うん、こいつなら話も通じそうだしいいかなと、ちょっと訪ねてみることにする。
「なあ、ここってなんて名前の町?」
「へ? ここは…並盛町、ですけど」
「あー…そう」
「来るのは、はじめてですか?」
「まあ…まあ、そんなところ」
やっべえ全然聞いたことのない町だ。詳しいことを諸々確認したのだが県の名前は知っているものではあるものの辰巳ポートアイランドなどの地名…人工島は知らないらしい。優しい少年はコンビニに連れていってくれて、棚に並べられている地図を広げてみる。
「あるかな」
「どーだろうな。あったら俺泣いて喜んじゃうんだけど…あ、やべえ無いわ」
「うぇえ!」
広げた日本地図を指でなぞりながら下へ下へと目線を落としていく。が、辰巳ポートアイランドどころか橋で繋がった離島すら存在していない。つまり。住み慣れた稲葉市すらない可能性が高く絶望的だった。
ちくしょー…シャドウのおかしな攻撃さえ避けてればこんな別世界に落とされることなかったのに。
元はといえば花村が俺にぶつかってきたのが悪い。あいつ今度会ったらシメてやろう。
「は、花村…さんって、友だちですか?」
「え? …俺口に出してた?」
「ええと…シメてやろうまでしっかりと」
「……忘れてくれ」
努力します、と言いつつ若干距離を取る少年。余程俺は恐い顔をしていたようだ。売り物なので地図を丁寧に折り畳んで棚に戻し、コンビニの自動ドアを潜る。
さっきまでは霧に包まれた世界にいたもんだから太陽の光が眩しすぎる…俺は吸血鬼か?
「あ、あの!」
「ん?」
「これからどうするんですか…?」
「あー…どうするかな。幸い手持ちに財布とか携帯はあるからまだ救われてんだけど」
「その、花村さんに電話繋がったり…」
「繋がってもなあ、俺のいた世界に帰れるかも怪しいけど。まあやるに越したことはないか。あ、俺のことはこれ見とけば分かるから」
「えっ、わっ、」
少年の提案を飲んでみることにした。電話帳から花村の名前を探して呼び出しボタンを力任せに押す。携帯と一緒に出てきた生徒手帳を渡すと不器用なのかは知らないがわたわたして手帳を落とした。ペコペコと頭を下げて、何度も謝ってくる。真面目だ。
「はちじゅうかみ…?」
「やそ。八十神高校。の、桐条純也」
「え? じゃあこっちの苗字は」
「諸事情で変えてたんだよ。本名は桐条」
「へー…あ、俺は沢田綱吉っていいます」
「徳川?」
「それ将軍!!」
「犬将軍?」
「俺は沢田です!!」
「中学生…だよな。声変わりしてないっぽいし」
「あ、はい。並盛中の2年生です」
「ふーん。」
「……電話、出そうですか?」
「話してるうちに留守電になった」
できれば聞きたくなかった機械の声に、役立たずがと吐き出しそうになる。多分まだテレビの中でうろうろしてんだろうな…探し回っても俺はそこにいないから申し訳なくなる。
携帯を確認する。よくよく見れば電波の状態が最悪だ。見たくなかったな、「圏外」の二文字。
「沢田、携帯持ってる?」
「や…中学生じゃさすがに持ってません」
「だよなあ…俺の携帯圏外なんだよ。そりゃかかるわけねえわ」
「圏外? 電波状態が悪いのかな…」
「この携帯はこの世界で買ったもんじゃないし使える条件下に無いのかもな。ただのガラクタってのはこういうことだ」
ただの箱となった携帯をポケットにしまう。生徒手帳も返してもらい、財布を取り出して中身の確認。さすが高校生の財布。小銭しかない。銀行のカードがあっても口座がないんじゃただのプラスチックカードじゃねえか…マジでヤバい。保険証も何もかもあってないようなもの。この世界の人間でないということは当然戸籍も無い。
「鬱になるな。」
「………、」
「まあいいや。どうにかしよ」
「超ポジティブ!」
「沢田、世話になったな。ありがとう」
「え! 結局行く宛は…」
「無い。」
「ッ…じゃ、じゃあ!!」
「?」
「その…少しだけ、うちに来ませんか!」
「……は、」
いきなり制服の袖をぎゅっと掴んできていきなり何を言い出すのだろう、この男は。
お互い名前を知ったとはいえ他のことは何も知らない人間を家に誘うか? 警戒心が無さすぎる…過度のお人好しか? どっかにいたな、そんなやつ。
「…お前親は?」
「う…と、とりあえず母さんに事情を話してみます…」
「…世話になれるなら、なりたいな。地味に寒いし。今日だけでも」
「! よ、よかった。じゃあ行きましょう!」
「うお、」
見かけによらず強い力で引かれる。小さいし体は細いし、どこにそんな力があるんだか。
茶色いツンツン頭に、オレンジ色の瞳。時おり表情を窺うように振り返ってきてそのたび大丈夫だと伝える。不安に染まった瞳に見つめられるとこの手を振り払う気にもなれなくて、結局着いていってしまった。
トントンと、順調すぎるほど話は進んでいき…俺は沢田家に世話になることとなった。
(出迎えたのは子供と子供と赤ん坊…赤ん坊?)
(どうやら、ややこしい家に来てしまったようだとすぐさま確信した)
P4→復活へのトリップ。
シャドウとの交戦中に陽介がぶつかってきてそのままシャドウにバクンと飲み込まれ復活の世界に飛ばされちゃった不運な夢主。心の中で帰ったら陽介を殴ると決定事項。
P4は事件未解決。復活は継承式篇終わったくらいでもいいかなあ。
ちなみに召喚器は胸元に隠してある。武器はきっと食べられたときにテレビの中で落とした。炎は使えないけどペルソナの魔法は使えるからそれなりに戦えそう。だが対人間での体術はあんまし強くない。ただ打たれ強い。