短編その2

□白に融ける
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雪合戦で作る雪玉は、当たるとゴンっと痛い音なんてしただろうか。寮の壁に当たった雪玉は派手な音を立てて砕け散る。少し掠っただけでも当たったら絶対に痛いと分かる雪玉の硬さに寒い中冷や汗をかいた。


「ストップ、湊さんマジで止めて!」

「…なんで?」

「雪玉が凶器になってるから。俺のこと殺す気か!」

「え。だって雪玉…」

「ある程度丸く固めればいいんだよ。なんで中の密度を限界まで高めるような握り方してんの? さすがの俺でもそれ喰らいたくない」

「……丸いよ?」

「見た目はな!」


キョトンとしているのがなおさら恐い。純粋な雪遊びを小さいころにしなかったせいなのか、もしかして俺に本気で当てに来ているのかは知らないが玉=頑丈なものと勘違いしているみたいで湊さんが作った雪玉は触ってみるともう…石に近い硬さだった。なにこのおぞましい物体。野球ボールかよ。


「雪合戦は遊びなんだから適当に丸めればいいんだよ」

「適当に…」

「違う違う。そんなぎゅってしなくていいの。軽くでいいから」

「……。」

「湊さん…試しにこれ当たってみようか。マジで凶器だから」

「痛いのは嫌だよ」

「その痛いのを俺は必死に避けてたんだよ!」


雪合戦ってこんなに恐いものだっただろうか。と疑問を抱くほどだった。雪玉を投げてくる湊さんの顔はどこか楽しそうだったけど投げるという行動がほぼほぼ全力だったのだ。これ敵を倒すというか殺すような遊びじゃないよな…殺意はなくとも死期はちょっと感じた。


「…雪だるま作ろう」

「うん」

「その雪玉から作る」

「これから?」

「そう。それを雪の中に置いて転がしていけばいいんだ」

「…これで出来るの? 本当に?」

「嘘ついてどうすんだよ…」


半信半疑で雪玉を転がし始める湊さん。あの大きさの時点では二人も人手はいらないから階段に座って見物をすることにした。これだけ多くの雪が積もっていると雪を転がしても道の路面が出てこない。溶けるのに時間がかかりそうだ。遊びがひと段落したら雪かきをしなきゃダメだな…。

と、少し考え事をしているうちに雪玉は湊さんの膝辺りまで大きくなっていた。ちょうど目の前に来たところで止まり、ずっと中腰で痛くなったらしい背中を伸ばす。


「雪だるま…めんどくさいね」

「うん」

「…これ、何が楽しいんだろ」

「雪遊びしたいっつったのアンタだろ…」

「一人じゃつまんないよ」

「…それ、頭にすんの? 胴体にすんの?」

「んー…頭」

「どうせなら三段にする? でけえの作ったら順平さんが興奮するかもよ」

「…いいね。驚かせたい」

「ん。」

「ねえ、純也」

「なに」

「余力があったらかまくらも作りたいなぁ」

「……残るかな…体力が…」


ぶっ倒れる気がしなくもないが、はにかんだ笑みを見せられたらそんなこと言ってる暇もないのでいそいそと雪玉を大きくしていく。
一つ目の土台ができて、寮の扉の横に置く。最初は正面に置きたいと湊さんは言ったけど出入りするときに邪魔でしょうがないと言えばしぶしぶ頷き横に置くことで納得してくれた。

雪だるま。雪とは言えど溶かしてしまえば水に等しいため玉の大きさが大きくなっていくごとに重量が増えるし押すのもしんどくなってくる。手袋は溶けた雪で冷たいし足なんて最初っから埋まってるからキンキンだし。


「…三つ作るなんて言わなければよかったね」

「本当にね…」

「あと一つだね…はあ、疲れた…でもあとちょっと」

「持ち上げるのが一番しんどい」


頭が出来上がるまであと少し。顔やらパーツは湊さんが既に用意していて、もう完成は目に見えている。
が、俺たちの疲労も目に見えているからかまくら作りまでは至らなさそうだ。


「あとは乗せるだけだね」

「……二人で上がるか? これ」

「……気合で」

「湊さんからそんな言葉を聞く日が来るとは思わなかったよ」

「君は僕をなんだと思ってんの」

「気合とは無縁だと…」

「否定はしないけど言われるとちょっとイラッとくるね」

「いひゃい」

「変な顔」

「うるへー」


両頬を引っ張られてまともに言葉を発することができずそれをいいことに湊さんはくすくすと笑ってばかりだ。払い落とす気にもなれず睨みつけていれば呆気なく解放され、そのまま手袋をはめるかと思えば完成間近の雪だるまの頭部のことなんて忘れたかのように冷たい手が頬を包み込む。

白い景色を背景に、湊さんの目がすぐそこにあった。雪が積もって冷えたフードのファーが顔に触れて震える。

一瞬だけ感じたぬくもりに、唇だけがあつい。


「…なにすんの」

「気づいたらしてた」

「一応外なんだけど…」

「誰も通らないよ。雪だから」

「……。」


だからなんだ、と出かけた言葉を呑みこむ。
それを拒否する理由を俺は持ち合わせていない。雪で冷え切った手の冷たさは熱を冷ましてはくれない。逆に体温は上がるばかりで、ここは外だという理性ともう一度したいという本能がぶつかる。

もう一息か、と小さく呟く湊さんの声に我に返った俺は勢いのまま頭を揺らした。

ゴンッ!! と痛い音がして頭を抱える。


「…いったぁ…」

「飲まれるとこだった…」

「…飲まれればよかったのに」

「ッ…いつも思い通りになると思ったら大間違いだバーカ」

「最近生意気になってきたね」

「嫌かよ」

「ううん。…僕にだけなら、うれしい」

「…バカ。早く、さっさと雪だるま完成させて中に戻ろう」

「…うん」


僕にだけ、とか変なこと言うんだから。
こんなに生意気になれるの、アンタの前でだけだ。ほかの人の前では見せられない。

こんな風にしたのは、他でもない湊さんだろう。

最後の一つの雪玉を持ち上げるのはかなり苦労をした。二人揃って腰を砕くかと思ったし…この年で腰痛とかシャレにならない。
それでもなんとか持ちこたえて三段重ねの雪だるまを作ることができた。腕に見立てた木の棒を刺して、鼻も目も口も付けたらまあそれらしい形にはなった。


「できた」

「…デカい」

「思いのほか大きくなっちゃったね。順平驚くかな」

「第一声はなんだこれとかだと思う」

「まあ…なんとなく想像は出来る」

「…かまくらは、どうしよう」

「嫌。疲れたからもういい」

「さようですか…」


内心よかったと安心する。これで作るとか言われたら湊さんを置いて中に戻るつもりだったし。

体は休息を求めている。寒くて凍えそうで、早く風呂に入りたい。


「ね、楽しかった?」

「…悪くはなかった」

「素直じゃないね」

「うっさいな…湊さんのはしゃぐ姿が見られたから満足。でいい?」

「は? …そんな答え求めてない」

「…湊さんの新たな一面を見られたからとーっても楽しかった」

「ちょっと」

「今度は部屋がいいな。…ゆっくりしたい気分」


それが誘い文句だと、あなたは気づくのだろうか。

一人でする雪遊びはつまらなかったけれど、二人なら寂しくもなかったしできないこともできたから満足だし嘘はついていない。

ただ、まあ…しばらくは雪遊びは遠慮したい。寒くて寒くて仕方がないから。


「……鍵開けといて」

「閉めとく」

「誘っといてそれ?」

「ちゃんと開けて入ってきてね」


アイギスの手を借りたら追い出してやるから。
最後にその一言を添えればやらないよ、と残して中に入っていく。

静かに降る雪が、俺たちの歩いたあとを少しずつ消していく。音もなく失われていく光景に少しだけ名残惜しさを感じる。

不格好な雪だるまに少し笑って。自分も寮の中へと戻るためにドアを押し開けた。




(儚いもの)





怜さまリクエストでキタローと夢主で雪だるまを作る、でした。雪だるまを作るシーンが短すぎて内容に添えられていないような気がしますごめんなさい。フードで隠れているような感じでキスとかいいですよね…。雪だるまと聞くと夢の国のあの歌思い出します。雪だるま作ろ〜…なんて言い方キタローは絶対しないと思いますが。
改めてリクエストありがとうございました。怜さまのお気に召しますように。
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