短編その2
□とこしえの愛
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吐き気がするほど、甘すぎる毒。
一度捕まったらもう離れられない、クモの巣のような罠にまんまとハマってしまった以上は、どれだけ懇願しても解放なんてしてもらえないんだろう。
それは例え、生きる時が違えようとも。
「ッ、」
首もとに走る小さな痛みに息が詰まる。切れて流れ出た血を見るなりどこか嬉しそうな顔をして濡れた舌先がそれを舐めとった。
中途半端に脱がされた制服が腕に引っ掛かって、身動きが取りにくい。首やら顔に触れた髪の毛が汗で濡れるのも構わず夢中で自分でつけた傷を愛でるのは単なる気まぐれか、それとも物足りないのか。
どちらにせよ、暑いことに変わりはないのだけど。
「……なあ、湊さん」
「なに?」
「そんなに俺の血、欲しいの?」
かなり馬鹿げた質問を投げかけてみる。吸血鬼でも無いのにそんなわけない。でも唇が血で汚れているのを見たら、そんなことを思った。
一瞬キョトンとして、すぐに消える。薄い唇を濡らす真っ赤な血液を余裕なく拭い、そして荒い呼吸を吐き出した。
「僕は、君の全部がほしい」
「………。」
「心も、体もね」
「………あっ、そ」
吐き気がするほど甘い答えだった。聞かなきゃよかったと後悔するが、そういえばこの人はこんなんだったと思い出す。
興味がなければどうでもいいの一言。大して欲張りでもなく、私情で自分から何かを求めることがほとんどない。
そんな人が唯一、全部欲しいと欲張るものがあった。それは紛れもなく俺のことで、全部与えるのは無理なのにもっともっとと強欲になっていく。
俺の心と体はあげられるけど、全部は流石に無理だ。だって俺は一人の人間で、心を全部あげたら死んでしまうし体だってそう。
だから束縛されることを受け入れたのに。
「ぁ、う」
「……純也」
「ゃだ、奥突いたら、」
「嘘つき。好きなくせに」
「ッ〜!」
そんなことをされたら理性なんてあっという間に消える。既に繋がっている所は燃えるように熱く、奥を突かれるたび嫌でも声が漏れる。強い刺激に息が止まって、正直苦しくて仕方がない。けど気持ちよさもあるのだからどうしようもない。
感じすぎるのは、どう頑張っても隠しようがなかった。だって最後に行為をしたのは中学生のときだし、つまり大分ご無沙汰だったわけで久しぶりに与えられた快楽に身体は歓喜しているのだ。最初は痛かった。けどローションを使いきるほど使って滑りを良くして、馴染ませていけばそりゃスムーズに動けるだろう。ナカは勝手に締め付けるし身体は痙攣するし。
なのに理性が、自我が簡単に飛ばないのはきっとどこかで罪悪感があるからだ。
「―――ね、何考えてるの?」
「ッん、」
「ダメだよ。僕のことだけ考えて」
「んっ…ふ、ゃ、うごく、な」
「感じすぎじゃない? ココ、触ったらすぐいけそう」
「あ…ッ、」
「そんなにきもちいい?」
「っふ…ひ、ぁ」
どこを触られても感じることしか出来なくて泣けてくる。生理的に流れる涙が目尻を伝って流れ落ちた。
気持ちいい。けど口に出したら絶対にヤバいと分かっているから頑なに口を閉ざす。喘ぎ声は、出ちゃうけど。
快楽に翻弄されるだけ。今の俺にはこの行為から逃げる術も理由も意味もなくて、自ら手を伸ばし湊さんの首に抱きついた。
少し驚いたみたいだけど、すぐに元に戻る。じんじんと身体を侵食する痺れがツラくてさらに強く抱きつくと、湊さんの匂いが香った。
「(………あ、)」
じわりと涙が込み上げてくる。これは生理的なものじゃなくて、きっとたくさんの感情が入り雑じったものだ。
ほんのり甘い、懐かしい香りに包まれるのは嫌いじゃなかった。むしろ嬉しかった。最期に抱き締められたあの時と同じ香りに胸が締め付けられる。
抱きつかなければよかったと後悔する。ボロボロと流れる涙が見えない湊さんは、何も知らず俺だけを求めている。それが嬉しくて悲しくて。
「(……湊さんの、におい)」
少し、忘れかけていたと思う。
人は、忘れるときは声かららしい。
においじゃなくて、声。
「純也」
「ッ……うん、」
忘れたくない。離れたくない。失いたくない。
そして俺もまた貪欲になる。欲しくて欲しくて堪らない。
湊さんの身体も、心も、においも、すべて。
「……い」
「なに?」
「俺もッ…湊さんの全部、ほしい…!」
「ッ、」
「(……欲しかっ、た)」
最後の言葉は、圧し殺した。
本当に欲張りだ。俺が全部あげられないのに、湊さんのを全部欲しがるなんて。
湊さんの目がギラつくと同時に、律動が激しくなっていく。
苦しい。気持ちいい。けど痛い。
心が、痛い。
「純也ッ…!」
「ゃ、あ、出る…!」
「ん。いい、よ」
「はっ…ぁ、っ〜〜!」
奥に注がれた熱い欲望に身震いする。
このまま離さないでほしい。例え俺が逃げようとしても、そうしないように縛り付けてくれたって構わないんだよ。
そう、この世界から、帰れないようにしてくれたって。
「(なんて、)」
そんなこと、無理なんだけど。
労るような優しい口づけに身を委ねる。段々と深くなっていって、夢中で貪る。
「純也……」
その口から溢れた声があまりにも好きすぎて、柄にもなく笑ってしまった。ちょっと子どもじみていて、独占欲が強くて、かっこいい人。
ムッとした顔ですら綺麗で、吸い込まれるように今度は自分からキスをした。
(愛しさと、抑圧する悲しみ)
裏でありながら、とてつもなく暗い視点となってしまいましたが。書き終えて早々これは重いなと思いつつ、頭の中では激しい行為をしているので、皆さまの頭の中で補正して頂けると嬉しい。制服を全部脱がずに袖が腕に通ったままとか、中途半端な脱ぎかけいいですよね…全裸よりそっちの方が個人的に好きです。乱される感強くて。ちなみに時系列はPQです。だから生きる時間が違えています。お気に召して頂けたら、幸いです。改めてリクエストありがとうございました。