短編その2

□溺死するほどの愛を
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何もかもがはじめてだった。
少し薄暗い部屋で、心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかって思うくらい静かな中されたキスはいつもより熱っぽかった。

男の子と付き合うのは純也くんが初めてだし、キスだって彼が最初だった。だからもちろんこういうことだってするのは初めて。恐怖と恥ずかしさに震える私を安心させるように大きな手が冷えきった手を掴んで自分の胸元に引き寄せた。いつもより速い鼓動に驚いていると彼は少し恥ずかしそうに目をそらす。緊張しているのは、お互い様だった。


「あの、純也くん」

「?」

「……が、頑張ろうね!」

「は……っぶ、」

「ちょっと、なんで吹き出すの!?」

「っ…いや、ごめんまさかそんな気合いを入れられるとは思ってなかったから……いて、ごめんって」

「今の忘れて!」

「拗ねるなよ」


肩を震わせて笑いをこらえてるみたいだけど全然堪えられてない。苦し紛れとはいえそんなことを言った自分がバカみたいで、余計恥ずかしさが増して咄嗟に顔を隠したけれど無意味だった。それでも、ほんの少しだけ緊張が和らいだ気がする。まだちょっと笑ってる純也くんは宥めるように頬にキスをして、真っ赤なセーターに手をかけてきた。

そのまま、何も言わずに脱がされる。心の準備をする間もなくベッドの隅に置かれたセーターと、少し肌寒くなった本来の制服姿の自分に身体の熱が上がる。


「ぅ、少し、意地悪」

「まだセーター脱がせただけだろ」

「心構えが必要なのっ」

「一枚脱ぐたび構える気? 俺が待ちきれないんですけど」

「だって」

「せめてセーラー脱いでから構えろよ。まだガッチリ着込んでるんだから」

「ぅうう、」

「制服着たままやりたいなら話は別だけど」

「ええ!? よ、汚れちゃうし……あ、でもその方が…」

「そうなると早速こっちに手が行くな」

「っえ、」


何も身に纏っていない、裸でするよりも気持ち的には楽なのかなと思ったけど純也くんは躊躇うことなくスカートの中に手を入れてきた。太ももを撫で上げられてぞわぞわするのをよそに指先がストッキングとパンツに引っかけられる。


「え……えっ!?」

「着衣しながらってそういうことだろ。俺としては、強姦に見えるから嫌なんだけど天城がそっちの方が良いって言うならこのままするけど」

「っだ、誰もしたいなんて言ってない! 脱がせていいから! 制服汚れちゃう!」

「あっそう」

「ッ純也くん、早すぎ……!」

「お前が焦らしすぎなんだよ」


あー言えばこう言う私に埒があかないと判断したのか、問答無用でセーラー服を脱がせに来た。胸元のスカーフを抜き取る布の擦れる音なんか聞いてる余裕もなくて、抵抗する私の手をひらりひらりと避けながらあっという間に肌寒くなる。学校でも家でもあまり人に晒すことのない素肌を他でもない純也くんに見られていると思うと恥ずかしくて堪らなかった。穴があったら入りたいくらい。とうとう身に付けているものが下着だけになると、もう寒い。

不意に身体を持ち上げられたかと思うとすぐ後ろにあったベッドに座らされて、純也くんは背を向けると窮屈そうな制服のボタンに手をかける。

もう後戻りできない雰囲気。今度は布の擦れる音がよく聞こえて、手汗もひどいし心臓の音もすごかった。学ランを脱いで、シャツ姿になった純也くんの後ろ姿は花村くんとか瀬多くん程じゃないけどしっかりしてる。私にとっては、とても大きくてあったかい。

気づいたら脱いでる途中なのに、抱きついていた。


「……天城って意外と積極的だよ」

「つ、つい、いつもの癖で…」

「誘われてるようにしか思えないな」

「……だって、今からそういうこと、するんでしょ?」

「するよ。けど、正直優しくできる自信はない」

「え?」


急に身体が浮き上がったと思ったら背中に柔らかい感触。そして見上げた先には、いつもと変わらない純也くん―――がどこにもいない。代わりにいたのは熱っぽい雰囲気を纏って、少し余裕のない純也くんだった。


「女を求める男って、野蛮なんだよ」

「ッ〜」

「努力はするけど乱暴にしたらごめんな」


それに対する言葉は、純也くんに全部食べられた。




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